風力発電と太陽光発電は水力発電の5倍の開発面積を必要とする

では、自然エネルギーによる発電に大規模な自然破壊が伴うのはどうしてでしょうか? その謎を解くため、講義で聞くクイズをもう一つ紹介します。

火力発電で重油を1立方メートル燃やして得られるのと同じだけのエネルギーを、高さ100メートルのダムを使った水力発電で得るには、何立方メートルの水が必要でしょうか?

これを知識として知っている人はほとんどいないので、講義では直感で答えてもらっています。今までの講義では10倍から100倍、つまり10立方メートルから100立方メートルといった答えが最も多いです。たまに1000倍といった回答もあります。しかし、実はそれでも全然足りません。

正解は「約4万立方メートル」です。この数値は高校で習う物理と化学の知識を使って計算することができます。

水力発電で得られるエネルギーは、高校の物理で習う位置エネルギーから計算できます。位置エネルギーは<質量×重力加速度×高さ>で表されます。水1立方メートルの質量は1000 kgです。重力加速度は9.8m/s/sです。今、ダムの高さは100mと仮定しています。これらの数字を掛け合わせると、98万J(ジュール)、すなわち0.98MJ(メガジュール)となります。

一方、重油1立方メートルを燃やしたときに得られるエネルギーは、化学の燃焼熱(反応熱)の考え方で求めることができます。詳細な計算は省略しますが、得られる結果は3万9000MJです。

よって、これと同じエネルギーを得るには約4万立方メートルの水が必要になるわけです(なお、これらの計算は全て変換効率100%、すなわち、もとのエネルギーが全て電気エネルギーに変換される場合での比較です)。

自然エネルギーが自然にやさしいというイメージは虚構

自然エネルギーの最大の欠点は、エネルギー密度が非常に低いことです。そのため、広大な面積を使わないとまとまった電力を得ることができません。広大な面積を使うということは、それだけ自然を破壊することになります。自然エネルギーが自然にやさしいというイメージは虚構に過ぎないのです。

水力発電については、もともと自然破壊につながるとのイメージが持たれていますが、風力発電と太陽光発電にはそのようなイメージを持つ人はあまりいません。しかし、実は風力発電と太陽光発電は、水力発電以上の開発面積を必要とします。内山洋司著『エネルギー工学と社会』(放送大学教育振興会)によると、風力発電と太陽光発電は、水力発電と同じ電力量を生み出すのに、水力発電所の5倍の面積が必要であると算出されています。

科学というと、多くの人は今まで不可能だったことを可能にするものというイメージを持っている人が少なくないようです。しかし、実際は私たちが住む世界(宇宙)の制約を探す作業という側面が強くあります。たとえば、万有引力の法則は、私たちが重力の拘束から逃れられないことを示します。たしかに人間は飛行機の発明で空を飛ぶことができるようになりましたが、それは重力以上の揚力を生み出すことによって実現しているのであって、重力をなくしているのではありません。