万有引力の法則が私たちを拘束するように、エネルギー保存則も私たちを拘束しています。私たちにできるのは力学的エネルギーや化学的エネルギー、あるいは核エネルギーを電気エネルギーに変換することだけで、何もないところからエネルギーを新たに生み出すことはできません。自然エネルギーの研究によって、その変換効率を上昇させることはできますが、エネルギー保存則を打ち破ることはできないのです。

ですから、どれほど多額の研究費を投入しても、広大な開発行為なくして、エネルギー密度の低い自然エネルギーで従来の火力発電や原子力発電を代替させることは不可能です。その種の試みは必ず失敗します。

太陽光パネルの劣化にご用心

ここまで書かれていることを読むと、私が太陽光発電、さらには自然エネルギー全体を敵視しているように見えるかもしれませんが、それは誤解です。

その証拠に、私の家の屋根には太陽光パネルがついています。実は、上で紹介した計算は、東日本大震災のときの計画停電で、せっかく太陽光パネルがあるのだから、その電気を貯めて夜の停電中に使えないかと考えたことがきっかけになります。

最初は、蓄電池の購入を検討しました。しかし、1キロワット時の容量で10万~20万円もすること、さらに寿命が5年から10年というのを見て断念しました。東日本大震災級の地震が今後10年以内にまた起きる確率はそれほど高いとは思えません。そのために10万円以上を投資する気にはなれませんでした。

そこで、「庭に穴を掘って揚水発電をしてはどうだろう」と考えました。昼の余剰電力で水を上に汲み上げておき、夜にその水を落下させて水力発電をしようと思ったのです。それで計算してみると、3mの高低差の場合、10m×10mのプールに水深約1.2mの水をはることが必要であると算出されました。さすがに、そんな広い庭はありません。

もちろん、水より比重の重い液体、たとえば水銀のプール(!)にすれば、プールの体積は約14分の1で済みますが、当然別の問題が生じます。この出来事をきっかけに、各種自然エネルギーのエネルギー密度を計算したことが、今回の内容の元ネタになっています。

ちなみに、我が家の太陽光発電は設置9年目の2014年から徐々に出力が落ち始め、2018年時点で出力は設置当初の10分の1程度まで落ちています。(追記:この点について、その後専門家の方から、こうした加速度的な出力低下が起きた場合、火災のリスクも考えられるので点検が必要との助言をいただきました。なお、今ではこの種の故障に対する対策はとられているそうです※)

※編注:初出時、「太陽光パネルの寿命は基本10年だそうです。つまり、寿命20年というのは誇大広告なのです」とありましたが、「追記」の指摘を受けて、当該部分を削除します。(2018年6月4日プレジデントオンライン編集部)

『「先見力」の授業』(掛谷英紀著・かんき出版刊)

このように、自然エネルギーに対する過大な期待はどれも裏切られる運命にあります。それでも、自然エネルギー礼賛の声は衰えを知りません。自然エネルギーを喧伝している人たちは、果たしてここに書かれたことについて無知なのでしょうか。それとも分かった上でウソをばら撒いているのでしょうか。

実際には、両者が混在しているように見えますが、私は後者の人に遭遇したことがあります。意図的にウソをばら撒くのは、一体どこのどいつなのか。それはさすがにネット上のこんな目立つところでは書けません。答えを知りたい人は、拙著の116~117ページを立ち読みして、その正体をこっそりご確認いただければ幸いです。

掛谷 英紀(かけや・ひでき)
筑波大学システム情報系准教授
1970年大阪府生まれ。93年東京大学理学部生物化学科卒。98年東京大学大学院工学系研究科先端学際工学専攻博士課程修了。博士(工学)。通信総合研究所(現・情報通信研究機構)研究員を経て、現職。専門はメディア工学。NPO法人「言論責任保証協会」代表。著書に『学問とは何か 専門家・メディア・科学技術の倫理』『学者のウソ』など。近著に『「先見力」の授業』(かんき出版)がある。
(写真=iStock.com)
【関連記事】
"先見力のある人"はマンガやラノベが好き
本当に大手電力は接続を拒否しているのか
電力の「地産地消」が新経済循環を生む
なぜ城南信金は太陽光発電にこだわるのか
"脱原発より超原発"小池氏の隠したい過去