年金繰り下げで月22万円が月31万円になる

▼最善シナリオ:60歳過ぎても正社員待遇、70歳過ぎまで働き年金増額

まだそれほど多くはありませんが「65歳定年企業」も増え始めています。厚生労働省によれば、定年年齢を65歳以上に設定している企業は17.1%、定年年齢の定めのない企業は2.6%でした。70歳以上まで働ける環境のある企業の割合は実は22.6%(中小企業:23.4%、大企業:15.4%)にも達しています。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/TAGSTOCK1)

高齢者雇用の環境は人材不足、ノウハウの引き継ぎなどの要請から改善が続いているので、現在の数字を未来の数字が上回る可能性は高いです。

60歳まで勤めた会社が、66歳以降も働ける環境を用意しているのであれば、これを利用することでセカンドライフの収支は大きく改善します。退職金の取り崩し開始を1年遅らせれば、退職金が底をつく期間も1年先送りできるからです。

また、公的年金を65歳から受け取らず、支給開始を遅らせる「繰り下げ」をすると受け取り額を増やすことができます。雇用による収入で生活費をなんとかやりくりできれば、1年間の受け取り留保で年8.4%の増額、70歳まで受け取らなければ年金額は年42%の増額になります。これは手元の財産を運用で殖やす以上の「価値」が生まれます。

年金繰り下げを行い、仮に月22万円の年金を夫婦で42%アップさせれば、月31万円に増額されます。これは年金生活夫婦の毎月の家計の不足を充足する規模の増額になるので、70歳以降は退職金などの取り崩しをほとんど行わず、長生きに備え、趣味や生きがいの予算を増やすことができます。

▼公的年金は受け取りつつ、65歳以降も働くという選択肢

あるいは、公的年金は受け取りつつ、65歳以降も働くという選択肢もあります。こちらの場合、年金増額はありませんが、「年金収入(賃金額によって在職老齢の調整あり)」+「賃金」の合計でやりくりできますから、その分、退職金の取り崩しを遅らせることができ、完全リタイア後の家計を大きく好転させることができます。

総務省の「家計調査年報」などによれば、一般的な年金生活夫婦は、年金収入だけでは家計をまかなえず年65万円ほど預貯金を取り崩しています。もし5年間長く働き、この取り崩しをゼロに抑えることができれば、70歳時点で資産減少のペースを325万円(65万円×5年)遅らせることができた、ということになります。

賃金収入があることで、さらに年20万~30万円(5年で100万~150万円)ほどの貯金ができたとすれば合計で500万円近くのアドバンテージを得て、以降のセカンドライフのやりくりに回せることになるわけです。

今のところ、公的年金制度を所轄する厚労省は、個人が自発的に受給開始年齢を遅らせる意向を持つ人々に向け、70歳以降の受け取り開始ならさらに増額を検討するなど、年金増額の選択肢を設ける方向にあるようです。

もはや「65歳引退」すら時代遅れになりつつあります。65歳以降も働けるのであれば、働けるだけ働くほうが老後人生を歩む上では有利です。チャンスがあるならぜひ活かして長く働きたいものです。