あなたの引退シナリオは? 人生の収支は「60代」で決まる
「あなたとお金の生存戦略」を考える本連載。今回は「ラスト10年の働き方」を取り上げます。社会人の「ラスト10年」とは「50~60歳」ではありません。時代状況を踏まえると、その次の10年、つまり「60~70歳」が現役期間として考えるべき最後の10年間になろうとしています。
まだ「60歳定年」というイメージを持つ人がいるかもしれません。年金支給開始は段階的に65歳に近づいていますから、60歳を引退年齢にすると、「無収入の5年間」が生じます。その空白を避けるため、政府は65歳まで継続雇用などで働ける環境づくりを進めています。政府はさらに65歳以降の雇用環境整備にも着手する方針です。
「人生100年時代」において、「65歳引退」も徐々にリスクの高い選択肢になりつつあります。今回は「ラスト10年の働き方」をケース別に考えてみたいと思います。
▼高齢者の夫妻世帯は「毎月5.5万円」の赤字
まず、確認しておきたいのは「老後にいくら必要なのか」ということです。
総務省の「家計調査」(2017年)によると、高齢者夫婦無職世帯(夫65歳以上、妻60歳以上の夫婦のみ)の1カ月の実収入は公的年金など約21万円である一方、食費・交通通信費・交際費・教養娯楽費などの支出は約26.5万円。つまり月5.5万円の赤字になっています。公的年金は老後の安定収入として期待できるものの、老後の生活には不足をもたらしていることが分かります。
月5.5万円の不足も長いセカンドライフを通じて考えると大きな金額です。女性の65歳平均余命(約24年)を考えれば赤字はトータル1584万円、人生100年時代を想定して35年分を考えれば2310万円です。
これに対して、退職金水準はというと、加入企業の8割超が従業員500人以上の大企業に聞いた経団連の調査によると、大卒で2374.2万円。東京都が中小企業を対象に調べた数字では、大卒で1128.9万円が目安です。
前述した老後の不足額と照らし合わせると、退職金の存在が生活していく上で欠かせないことがわかります。これに加えて預貯金額があったりiDeCo(個人型確定拠出年金)の積立残高があればより余裕をもった老後になります。しかし、退職金に手をつける時期をできるだけ先延ばしすることが老後生活を決めるといっても過言ではないのです。
その上で、3つのケースを見ていきましょう。