【佐藤】霞が関では、小泉政権ではなく、野中(広務)政権擁立の方向で動いていました。そこで小泉は奇策に出た。党内での根回しを一切せず、数寄屋橋で田中眞紀子と二人で「自民党をぶっ壊す」と演説する姿をテレビで流させた。国民は「これだ!」と共鳴した。小泉はこれまでにはなかった政治力を用いて当選した。
無党派層を煽って「神風」を吹かせる小泉劇場
【片山】小泉内閣が様々な組織を破壊した結果、支持政党もイデオロギーも持たない人が増え続けた。こうして自ら生みだした無党派層を煽って「神風」を吹かせた。
「神風」は瞬間最高支持率と言いかえられます。その瞬間を少しでももたせて持続させて、瞬間を瞬間でなくするためには、破壊を続けて、熱狂的瞬間を連鎖させてゆくほかはない。これが今の政治モデルの原型である小泉劇場です。
安倍政権も小池都知事も小泉劇場を模倣しているに過ぎないでしょう。冷戦構造崩壊以後、思想や主義に関係なく、政党が組み替えられていく流れが、小泉内閣誕生で決定的になった。
【佐藤】霞が関村は野中政権を望んでいたのですが、外務省だけは小泉政権を歓迎しました。それは外務省が、伝統的に清和会人脈が強い組織で、安倍晋太郎の世話になった官僚が多かったからです。実際、橋本政権以降、経世会の政権が続きましたが、小泉政権下では清和会人脈が優遇されるようになった。
【片山】小泉政権になり、外務省はタカ派路線で行けると喜んだわけですね。アメリカ同時多発テロ後、アフガニスタン侵攻を表明したブッシュ政権を日本はいち早く支持しました。それが今も議論の対象になっていますね。
ビン・ラディン殺害はどうみても国際法違反
【佐藤】9・11の場合、テロとの戦いに国連も他国も賛同しました。日本も足並みを揃えたにすぎません。それをさらに踏み込んだのが、10年後の菅直人首相なんですよ。11年5月に行われたオサマ・ビン・ラディンの暗殺を支持したのは主要国のなかで日本とイスラエルだけ。主権国家であるパキスタンで、アメリカが軍を動かしてビン・ラディンを殺害した。どこからどうみても国際法違反なんですよ。
外務省の国際法局も反対したけれど、菅は支持に踏み切った。日米同盟の基幹だし、国際法に違反しているからこそ、アメリカの力になれる、と。だから菅は、オバマ政権にとても好かれたんです。
【片山】歴史を逆に回すと、宗教対立や国際社会の混乱はいうまでもなく01年9月11日の同時多発テロに始まります。佐藤さんはどちらにいらっしゃいましたか?