一方で、トヨタらしさの象徴である「TPSと原価低減」がこれまで社内全体に徹底できていたかというとそうでもないらしい。豊田社長は「トヨタマンならトヨタ生産方式のことは何でも理解していると思われがちだが、実際にはそうではない。TPSは生産現場のものだという認識が社内にははびこってしまったと反省している」と漏らした。
「国会答弁みたい」な会議資料をつくっていた
生産現場では「無駄な在庫や作業はないか」「モノはスムーズに流れているか」「次の工程に不良品を流していないか」と日々、無駄の排除に努めている。だが本社などで働くホワイトカラーの幹部社員はどうだったか。
現場から離れれば離れるほど、会議の根回しや、会議資料の準備を仕事だと思いがちだ。日本のどこの会社でもよく見られる風景であるが、トヨタでもそうだった。そこにも「TPSと原価低減」の哲学を徹底させなければいけなったのだ。
同席した小林耕士副社長は「経営会議などはこれまで想定問答まで含めた膨大な資料をつくり、国会答弁みたいになっていた。今は資料なしで、要点が問題なければ議論もしない。部下のメンバーも資料をつくる必要はなくなった」と事務系職場での最近の変化を披露した。
本当に「TPSと原価低減」だけで勝てるのか
トヨタは2008年のリーマンショックの前まで海外での生産拠点を急拡大し、その後の世界経済低迷で業績を悪化させた。豊田社長は11年以降、販売台数が750万台程度に落ち込んでも黒字が出せる経営体質の企業に変えようとした。豊田社長は「体質改善は進んだが、ぜい肉がなくなっただけで、筋力がついていなかった。今後は筋肉体質に変えていきたい」と語った。
「100年に一度の大変革」の時代は、従来のライバルである自動車メーカーだけでなく、グーグルやアマゾンなどのIT企業も新たにライバルとなる。そうしたIT企業の動きを「われわれの数倍のスピード、豊富な資金を背景に新技術への積極的な投資を続けている」(豊田社長)とみており、トヨタには強い危機感がある。その危機をどう乗り越えようとしているのか。
「TPSと原価低減」で本業の収益力は増す。「稼ぐ力」を強め、新技術・新分野への投資を増やせるようにはなる。またホワイトカラーも含め、仕事の無駄をなくせば、アイデアを考え、技術やノウハウを持ったパートナーと連携する時間が増し、新しい知恵がうまれるかもしれない。「TPSと原価低減」が「未知の世界」での競争に勝ち抜く、基礎体力づくりに効果がありそうなことは理解できる。