その3:長期的視点を持て

ティールにとって、世界をゼロから1に変える投資は、新しい何かをつくりだすための前提だ。伝統的なリスクキャピタル業界がだめになった理由も、実はここにある。

トーマス・ラッポルト『ピーター・ティール 世界を手にした「反逆の起業家」の野望』(赤坂桃子訳、飛鳥新社)

この10年間というもの、多くのリスクキャピタル企業は投資でプラスの利益を出せなかった。たいていの投資家は、イノベーションが少ないとこぼしつつ、真のイノベーションを避けて通っている。安全な馬にまたがって、二番煎じのカメラアプリやSNSに投資しているのだ。

だがこうした模倣製品からは、高い利回りは期待できない。それに対してティールのファウンダーズ・ファンドは、会社が軌道に乗るまでに数年かかるが、もし成功すれば非常に大きな価値を発揮する会社に賭ける。

真のイノベーションだけが投資の成功をもたらす。だが、イノベーションには時間がかかる。だからティールのようなベンチャーキャピタリストは、投資した企業がその強みを十分に発揮できるようになるまで、何年もがまんして待つ必要がある。

その4:隠されているドアから入れ

ティールは逆張り屋を自認しているばかりでなく、実際そのように行動している。ドットコム・バブルがはじけた直後の2004年という最悪のタイミングで、エンドユーザーを対象にしたBtoCのインターネット企業フェイスブックに投資したのがいい例だ。

2004年にティールが立ち上げたデータ解析企業、パランティアの創業時も、当初は実質的に自己資金だけではじめなければならなかった。他のベンチャーキャピタルは、BtoBで、しかもCIAをはじめとする閉鎖的な政府機関と取引をしようというインターネット企業に将来性があるとは考えなかったからだ。ティールは2度にわたってベンチャーキャピタルの常識をくつがえしたことになる。

現在フェイスブックの企業価値は数千億ドルで、世界トップ10にランクイン。パランティアの企業価値は200億ドルに達しており、シリコンバレーの非上場企業のトップ3に食い込んでいる

トレンドとは逆に投資し、すぐれたイノベーションを認め、適切なタイミングを見定めることでしか、法外な利益を上げることはできない。隠されているドア、脇にあって誰も入ろうとしないドアから入れとティールは言う。人が殺到しているドアは避けよう。

ちなみにこの点もバフェットと同じだ。「他の人間がパニックに陥っているときに買い、他の人間が貪欲になっているときに売れ」──バフェットのシンプルな公式である。多くの投資家はその逆の行動に出て、最高値で買い、パニックになって底値で売る。バフェットは2008年のリーマンショック時のように、市場が崩壊しているときこそ積極的に行動に出る。