実質賃金も2年連続マイナスの可能性
さらに厳しい状況としては、アベノミクスの根幹はいかに企業収益の増加→賃金の増加→需要増加→企業収益の増加……という好循環を作り出し、賃金を上げるかというところにあるが、そこに赤信号が点滅している。
春闘の賃上げ率の先行指標として、労務行政研究所が1月末に公表した賃上げ率を見ると、アベノミクス以降最高の賃上げ率を記録した2015年を下回る予想となっている。さらに、この調査が昨年12月から年明けの1月前半までだったことからすれば、おそらく実際の賃上げ率はさらに厳しくなった可能性が高いと考えられる。
アベノミクス以降最高の賃上げ率を記録した2015年でも、毎月勤労統計ベースの名目賃金上昇率は一般労働者の所定内給与で+0.54%だった。それよりも今年の賃上げ率が下がる可能性があることに加えて、働き方改革の影響もあり、家計の残業代収入が減っていることからすれば、今年の実質賃金は2年連続のマイナスの可能性もある。つまり、このまま放置しておくと、今年の日本経済は相当厳しいことになることが想定される。
さらに、そこに米中貿易戦争のリスクが高まっていることからすれば、筆者は従来、日本経済は消費増税と東京五輪特需の勢いがピークアウトする2019年度後半に景気後退入りすると想定していたが、米中の貿易摩擦の行方次第では、さらに早いタイミングで日本経済が景気後退局面入りする可能性も排除できなくなってきたと言えよう。
というのも、リーマンショック後に世界貿易が落ち込んだことで、日本の経済成長率の下落率が震源地である米国の2倍の落ち込みを示したことからも、米中貿易戦争の影響は容易に想像できる。日本への影響が大きい背景には、世界貿易が落ち込んでも日本の輸入比率の高い食料やエネルギーといった生活必需品の貿易の落ち込みは限定的となるが、日本の輸出比率の高い自動車や電子部品といった加工組組み立て品は一気に貿易が落ち込みやすいことがある。となれば、日本の生産活動は大きく落ち込み、家計の収入も大きく落ち込むことは避けられないだろう。