そのためスーパーやコンビニでも、半分にカットしたレタスやキャベツを販売するなど工夫してきましたが、そのうちにあらかじめカットして袋詰めにした商品が出回るようになりました。袋を開けてそのまま皿に出せば即座にサラダになる、これは究極の「時短」野菜と言えるでしょう。

その一方で、「時短」とは異なる時間の流れを体験できる商品も売れています。私が2016年に発売した「育てるサラダ」に代表される「ガーデン」シリーズは、「時短」の真逆を行く商品で、なんとサラダ用リーフを自宅で栽培するキットです。カット野菜が帰宅から1分で食べられる商品だとすれば、「育てるサラダ」は実際に食べるまでは、最短でも1カ月はかかります。これが売れています。

「育てるサラダ」の概要。(ファミリーマートのウェブサイトより)

当初は若い女性をメインターゲットに想定して発売したのですが、ふたを開けてみたら50代、60代の男性もよく買われていて、これは予想外のうれしい現象でした。商品としての“モノ”を提供することが多いコンビニですが、自宅で楽しめる体験型の“コト”を提案して成功したのが、このシリーズの特徴でした。

ヒットにはネーミングセンスが問われる

これはかつて園芸会社で働いていた経歴を持つ社員が発案したものです。実は私も自宅でベランダ栽培などをした経験があるのですが、「緑のある生活をしてみたい」と思っても、実際に自分で鉢を買い、土や苗を買って栽培するのは手間がかかるものです。肥料なども種類がたくさんあり、その植物に何が合うのかわからなかったり、いざ虫がついた時に気軽に相談できる人が身近にいなかったりするのも問題です。園芸店は郊外にあることも多く、都心に住む人にはアクセスしにくい現状もあります。そこに目をつけての商品でした。庭やじゅうぶんなベランダを持たない都心に住む人々の中にも、植物を育てる癒やしの時間を持ちたいと考える人は多くいます。

もしコンビニでその願いが簡単にかなえられたら、きっとうれしいのではないかと考えての商品化でした。商品化にあたってはサカタのタネさんと住友化学園芸さんという植物のプロの二社に協力してもらい、水を入れると膨らむ人工土にあらかじめ種をセットし、必要な肥料もすべて添えた商品が生まれました。

「育てるヤクミ」のイメージ。「葉ねぎ」と「青しそ」。(プレスリリースより)

これならば園芸に詳しくない人でも、特別な手間をかけずに緑が元気に育っていくのを楽しむことができます。「売れる化」に関しては、商品のネーミングも大切です。当初これは「サラダ」限定で発案された商品でしたが、それでは将来的に商品としての広がりがありません。そこで商品名は「育てるサラダ」としながらも、カテゴリー名は広く「ガーデンシリーズ」とすることにしました。そうすれば将来的に、サラダ以外の植物に広げることもできるからです。

ベビーリーフやバジルなどが育てられる「育てるサラダ」、青しそ、パクチーなどの「育てるヤクミ」、さらにケイトウやミニヒマワリなどの「育てるブーケ」などに加え、今後はベランダガーデニング用品の充実につながっていくでしょう。

本多利範(ほんだ・としのり)
本多コンサルティング代表
1949年生まれ。大和証券を経て、1977年セブン‐イレブン・ジャパン入社。同社の最年少取締役に就任。後に渡韓し、ロッテグループ専務として韓国セブン‐イレブンの再建に従事。帰国後、スギ薬局専務、ラオックス社長、エーエム・ピーエム・ジャパン社長を経て、2010年よりファミリーマート常務。2015年より取締役専務執行役員・商品本部長として、おにぎりや弁当など多くの商品の全面改革に取り組む。2018年、株式会社本多コンサルティングを設立。著書に『おにぎりの本多さん とっても美味しい「市場創造」物語』(プレジデント社)がある。
(写真=iStock.com)
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