部下の心理をつかむにはどうすればいいのか。そうした「リーダー学」を身につけるために大企業の経営者が「座右の書」としてきた中国古典が『貞観政要(じょうがんせいよう)』だ。この全10巻40篇という大著のエッセンスとはなにか。そして経営者たちに愛されてきた理由とは――。(前編、全2回)

※本稿は、守屋洋著、プレジデント書籍編集部編『貞観政要がやさしく学べるノート』(プレジデント社)を再編集したものです。

『貞観政要』は大企業の経営者にファンが多い

中国古典の大きな柱は「リーダー学」であり、さまざまな角度からこのテーマを取り上げている。ここで解説する『貞観政要』もその1つである。「貞観の治」として知られる、中国史のなかでも太平と繁栄の時代として燦然と輝くその姿を描いている。

守屋洋著、プレジデント書籍編集部編『「貞観政要」がやさしく学べるノート』(プレジデント社)

この『貞観政要』は大企業の経営者にもファンが多い。多くのベストセラーを書いた元ライフネット生命会長の出口治明氏(現立命館アジア太平洋大学学長)は『座右の書「貞観政要」』という著書を書いている。また、トヨタ自動車社長、会長を務めた張富士夫氏(現相談役)も中国古典の中でこの『貞観政要』を愛読書にしている1人だ。張氏は『プレジデント』(2006年9月18日号)のインタビューでこう語っている。

「『貞観政要』は『書教』とならぶ帝王学、リーダー学の中国における古典で、今から約1400年前の唐の時代、唐王朝二代目の李政世民(りせいみん)にまつわるさまざまな話が記されている。(中略)部下の心理をつかむにはどうしたらいいかとか、人を育てるためにはどうするべきか、といったことは現代に生きているわれわれに特徴的な問題や課題のように思える。しかし、数百年前の為政者もやはり同じような課題に直面して、その課題に対してしっかりとした思考を重ね、答えを出し、素晴らしい政治を行っていた。リーダーシップに関する知見の数々は今の時代にもまったく色あせていない。ビジネスリーダーならずとも、課長、部長などの管理職にはとても参考になると思う」

『貞観政要』に登場する太宗李世民は、西暦626年、第2代皇帝の座についた。その翌年、貞観と改元、649年に死去するまでの24年間その地位にあった。その治世は「貞観の治」とたたえられ、平和で安定したものだったと後世に伝えられている。

「太宗」とは、よく2代目に贈られた廟号(びょうごう)(皇帝が死去してから後に贈られた称号)で、初代には「高祖」や「太祖」などの廟号が贈られた。なお、『貞観政要』は太宗の死後50年ほどのちに、ある史家によってまとめられたものである。