従業員の過労自殺などから「ブラック企業」のレッテルを貼られ、客離れに苦しんでいたワタミが復調しつつある。その最大の戦略は「名前隠し」。店舗経営コンサルタントの佐藤昌司氏は、「衰退が著しい総合居酒屋から、流行の“鳥居酒屋”に看板の掛け替えを進めたことが功を奏した」と分析する――。
「三代目鳥メロ 新宿御苑前店」の外観。平日夜7時頃店の外からのぞくと、店内は賑わっている様子だった。(編集部撮影)

16四半期ぶりの黒字転換

ワタミが低迷から脱しつつある。その背景にあるのは、「看板架け替え戦略」の成功だ。

ワタミが2月13日に発表した2017年4~12月期連結決算は、本業の儲けを示す営業損益が5億2500万円の黒字(前年同期は1億900万円の赤字)、最終的な儲けを示す最終損益が3億1700万円の黒字(同6億7600万円の赤字)だった。

17年4~9月期の段階では営業損益と最終損益はともに赤字だったが、進めていた改革が実を結び、黒字に転換する形となった。両損益がともに黒字となるのは16四半期ぶりとなる。

売上高は下げ止まりした。17年4~12月期の売上高は、前年同期比2.0%減の730億円。減少はしたが、以前の年と比べると下げ幅は大きく縮小している。

しみついた「ブラック企業」のイメージ

同社は、2008年に従業員から過労自殺者を出したり、内部告発者を懲戒解雇したことが明らかになったりするなど、問題が続出していた。数々の不祥事によって“ブラック企業”のレッテルを貼られ、イメージの悪化から運営する居酒屋「和民」などで客離れが起きていた。そこに格安居酒屋市場の競争の激化といった要素も加わり、業績の悪化につながっていった。

14年3月期には1631億円あった売上高は、17年3月期には1003億円にまで激減。わずか3年で4割近くも減った。14年3月期は49億円の最終赤字だったものが、15年3月期には128億円にまで最終赤字が拡大した。16年3月期は黒字になったものの、17年3月期には再び赤字となり18億円の最終赤字を計上している。

ミライザカ 新宿御苑前店。ウェブサイトでは「NEO総合酒場」をうたう。(編集部撮影)

その惨状からなぜ脱出できたのか。これには、「脱『和民』」が奏功している。主力だった和民の看板を外し、から揚げが主力の居酒屋「ミライザカ」や、焼き鳥が主力の居酒屋「三代目鳥メロ」などへの転換を一気に進めることで、客足が回復したのだ。

これにより、従来の「和民」のイメージから脱却できただけでなく、衰退が著しい「総合居酒屋」から成長性がある「専門居酒屋」へ、その中でも特に成長が著しい「鳥居酒屋」へ脱皮できた。鳥居酒屋の代表格として知られるのは「鳥貴族」だが、ミライザカと三代目鳥メロも、このジャンルで存在感を発揮しつつある。