沈黙の間にビジネスについて深く思考する
先ほど、沈黙の間に「何か自分が無理なく話せることはないかを探る」と述べましたが、これは会話を継続させるための方策であり、あくまでも沈黙への対処法です。しかし、沈黙が訪れた際の最善策ではありません。なぜなら、沈黙は本来、放置してもかまわないものだからです。
沈黙は放置してもかまわないものと捉え、沈黙を恐れない人は、取引先との商談や打ち合わせで沈黙が訪れると、その間にビジネスについて深く思考します。商談や打ち合わせをする目的は、「ビジネスを可能な限り自分に有利な形で成立させること」のただ1点ですから、考えることはビジネスのことだけでいいのです。
ビジネスを大事に考えているから、場をしらけさせることが不安になり、無理に会話をつないでしまう。そんな反論もあるでしょう。しかし、沈黙は致命傷にはなりません。むしろ、不用意な発言のほうが、よほど決定的な失敗に結びつくのです。
一般的によく言われることですが、マシンガントークのトップセールスマンはいません。セールストークをまくし立てても相手の心に響かないという理由もありますが、不用意な発言でオウンゴールをしてしまうことも多いからです。
戸建て住宅をリフォームしたAさんの教訓
これは実際にあった話です。戸建て住宅に住むAさんは自宅を大事にしており、定期的に屋根や外壁などのメンテナンスをしていました。従来、すべての施行を担当してきたのはリフォーム専門のX社です。
ある日、X社の新人セールスマンがAさん宅を訪れ、屋根のリフォームを勧めました。マシンガントークの新人セールスマンはなんとか受注しようと、リフォームの必要性を並べ立てます。その中に「雨漏りが起こらないうちにリフォームしておいてほうがいいですよ」という発言がありました。Aさんは激怒しました。なぜなら、X社による前回の屋根のリフォームは5年前だったからです。
新人セールスマンから報告を受けた上司はあわててAさんに謝罪しましたが、「5年ももたない工事をする会社には任せられない」というAさんの意志は固く、以降のリフォームはX社のライバルであるY社が受注することになりました。
もちろん、AさんはX社が5年ももたない手抜き工事をしていると捉えたわけではありません。新人セールスマンの、デリカシーのないセールストークを嫌悪したのです。このエピソードは「沈黙は金なり」「口は災いのもと」の格言が真実であることを雄弁に物語っています。