緊縮予算で、どう運営するか

一般企業のメンバー構成の視点で、プロサッカーチームを考えると、主力選手(コア人材)と新加入選手(移籍人材・新卒人材)をうまく組み合わせて、成果を出すことが必要だ。移籍(スカウト)では「原石」を発掘して磨き、市場価値を上げる鑑識眼も求められる。過去に甲府に来てステップアップした選手もいれば、成果を出せなかった選手もいる。選手自身も活躍次第で「市場価値」が変わる事実を自覚するのは、一般企業の従業員とは違う。

チーム編成の最高責任者であるGM兼副社長の佐久間氏は、人事担当役員と人事部長を兼ねた存在だ。選手との1対1の対話も重視する。どんなことを話すのか。

「個人面談では、本人のパフォーマンスをもとに『期待する役割』や『要望』を伝え、クラブの財政状況など経営情報も開示します。昨年のJ2降格という結果を受けて、今季の事業収入は減収となるので、大半の選手には減俸を提示しました。他チームから獲得オファーが届いた主力選手もいましたが、その選手を含めて多くが残留してくれました」(佐久間氏)

もし選手が年俸交渉で「自分はもっと評価が高いはず」と不満を示した場合はどうするか。

「提示するのは、『会社の現状やあなたへの評価ではこの金額になる』という“事実”です。それに納得できない場合は、移籍となっても仕方ありません。ただし選手の不満や要望には耳を傾け、チーム全体の改善につながる話は、できるだけ希望に沿うよう動きます」

一方、フロントスタッフに対しては、「降格により減俸提示もあるが、雇用は守る」(佐久間氏)が基本姿勢だという。なれ合いの関係では戦う集団にはならず、厳しいだけでもチームはまとまらない。黒字運営を維持しながらJ1復帰をめざすのは大変だ。

「選手の悔しさ」をチーム力に変える

新卒選手を除くと、甲府のような「地方クラブ」に来る選手には次の思いがある。

(1)「もうひと花」咲かせたい
(2)ここから、はい上がりたい

(1)は、かつて上位クラブで活躍したベテラン選手に多く、(2)は期待されながらケガやチーム事情などで活躍できなかった選手に多い。なかには「甲府でサッカーをしたい」というポジティブな理由で移籍してくる選手もいるが、多くは悔しさを胸に秘めてやって来る。そうした反骨心をチーム力に変えることが求められる。

VF甲府で活躍して上位チームに移るのは、選手はステップアップだが、チームにとっては戦力ダウンだ。だが、それが地方クラブの宿命といえる。海外では、岡崎慎司選手が所属する「レスター・シティ」が、2016年に創部132年にしてイングランドのプレミアリーグ優勝を果たし、地方チーム関係者にも勇気を与えた。このチームにはいわゆる「超有名選手」はいなかったからだ。