聞き取りでは、最初の数語に集中
ブロークンでもとにかく意味さえ通じればいいじゃないか、という考え方はどうでしょうか。言語は文化であり、発音や話し方も文化の1つ。相手と同じ発音や話し方で話すことは、相手の文化を理解、共有しているアピールにもなります。
20数年前、商談でスイスのとある銀行を訪ねたときのことです。当社はまだ上場したてで、完全には信用を得ていない段階でした。商談の合間、先方の執行役員と行内のレストランで食事をしました。一流の銀行だけあって、壁にはシャガールの絵画がさりげなく飾られています。私はシャガールが好きだったのでそのことを伝えると、執行役員の反応が変わって、「音楽は何が好きか」「ラフマニノフはいい」と話に花が咲きました。
2人の距離が近くなったのは、文化を共有している、つまり同じ感性を持っていると向こうが判断してくれたからでしょう。感性が共通していれば、商談もスムーズに進みます。向こうは「この人たちは借りたお金をきちんと返すという私たちと同じモラルを持っている」と認めてくれ、そのときの商談は成立しました。
同じように、赴任先の人と共通した感性を身につけたければ、やはり彼らが使っている英語を学ぶべきです。文化は言語を通して伝わります。その国の言語を正しく学んでこそ、その背景にある文化や教養を一緒に吸収できるのです。
もちろん赴任まで時間がないなら、完璧を目指す必要はありません。たとえばボキャブラリーは、仕事で使うものにフォーカスして勉強すればいい。レストランで料理をうまく注文できなくても問題ではありません。楽しみのための英単語は後回しです。
必要なものに絞ってしっかり事前準備しておけば、商談でも主導権を握ることができます。練りに練った具体的な提案を最初にビシッと伝えたら、向こうはおのずと真剣になってメモを取り始めます。逆にいくら流暢に話せても、中身がなければダメです。
また、相手の英語を聞き取る際は、すべてのフレーズを完璧に聞き取ろうとはしないこと。集中すべきは最初の数語です。日本語と違って、英語は「I want」なのか「I don't want」なのかが最初にわかる。イエスかノーかさえわかれば、後のディテールは少々聞き漏らしたところで後からどうにでもなります。
逃げ場のない、環境が人を育てる
勉強法に話を戻しましょう。英語の上達はモチベーションに左右されるという話をしました。その意味で欠かせないのは、自分の尻を叩いてくれる身近な人の存在です。
当社は企業の英語研修をお引き受けしています。モチベーション向上のためにまず英語を習得する重要性を説明します。講師がさまざまな切り口から英語がいかに大切かをアピールしますが、当社のプログラムでは、さらに、企業の人事部の方にその役割を担ってもらいます。実際に人事を担当している方が「英語のできる社員が活躍している」と説明すれば、同じ内容でも響き方が違います。そのうえで、人事部の方には定期的な進捗状況のチェックなどを行ってもらいます。
その際、先輩社員のアドバイスがあると理想的です。前年に講座を受けた人が「今週はどうだった? あまり捗ってないね」「自分もここで躓いたけど頑張ろう」と声をかけます。これは効果てきめん。同じ経験をした身近な人の言葉ほど共感性が高くて、励ましになるのです。
効果をあげるには伴走役が必要
どんなに意思堅固な人でも遅れがちになるのが学習計画。英語学習に限らずカリキュラムを着実にこなしていくには、個人任せにするのではなく、定期的に進捗状況をチェックする役割の人が必要。それは自社の人事担当者や直接の先輩など、身近な人のほうが効果的。