札幌市の共同住宅で火事が起き、11人が亡くなった。暮らしていたのは体の不自由な高齢者や低所得者。施設の運営者は「防火設備にお金をかける余力はなかった」と話している。社会的な弱者の集まる施設で、大規模な火事がたびたび起きている。どう防げばいいのか。ジャーナリストの沙鴎一歩氏は「弱者への共感を広げる必要がある」という――。
2018年2月6日、火災で11人が死亡した自立支援関連施設「そしあるハイム」と、近くに設置された献花台(写真=時事通信フォト)

最後のよりどころ襲った火災

またもや体の不自由なお年寄りや低所得者が暮らす共同住宅で火事が起きた。11人もの命が奪われた。彼らの最後のよりどころを襲った悲惨な火災である。

火災は1月31日の深夜、札幌市の生活困窮者向けの共同住宅「そしあるハイム」で発生した。建物は木造2階建ての旅館を改造したもので、自立支援を促す民間事業所が運営していた。各部屋に石油ストーブがあり、1階には灯油タンクが置かれていた。

消火器は1、2階にあったが、共同住宅という位置付けからスプリンクラーの設置や避難訓練の義務はなかった。夜間は職員が不在だった。

これまでも生活保護を受ける人々が住む施設で大規模な火災が発生し、多くの犠牲者を出し、その度に防火設備の不備や行政対応の遅れが指摘されたが、今回のそしあるハイムも資金繰りが苦しく、初期消火に役立つスプリンクラーの設置に回す費用がなかったという。

今後、そしあるハイムのような施設の安全をどう確保していけばいいのだろうか。国や自治体の行政の対応だけで問題は解決するのだろうか。各紙の社説を読みながら考えた。

読売は防火態勢の重要性を指摘

2009年3月には群馬県渋川市の無届けの高齢者施設で火災が起き、入居者10人が死亡した。2013年2月には、長崎市の認知症グループホームで入居者5人が死んだ。

いずれの火災も防火設備が不十分だったことが問題になった。根底には資金不足があった。そしあるハイムも同じである。

2月2日付の読売新聞の社説は冒頭で「高齢者らが身を寄せる共同住宅の火災は、多くの犠牲者を出しやすい。防火態勢の重要性を改めて思い知らされる」と書き、「足腰の弱い入居者も多かった。内部の廊下は『1人しか通れないほど狭かった』との証言もある。深夜に出火すれば、避難がままならず、大きな惨事となることは容易に想像できただろう」と指摘する。

石油ストーブや灯油の扱いは問題なかったのか。足腰が弱いと消化器を使いこなすのは難しいし、体の不自由な高齢者は逃げようがない。

ある程度の費用をかけてスプリンクラーを設置していれば、死者が多数出るような火事には至らなかったはずだ。

行政と運営側の責任は重い

読売社説は「札幌市は、この共同住宅の実態を把握できていなかった」と指摘し、「市は『無届けの有料老人ホームの疑いがある』とみて、事業所側に何度も問い合わせたものの、回答は得られなかった」と書く。

回答が得られないというなら、ある程度強制的な立ち入り調査を実施するべきではないか。札幌市は余計な仕事を増やしたくないと積極的に動かなかったのではないか。もしそうだとすれば、行政の怠慢だろう。

読売社説は運営側の民間事業所の責任も追及する。

「介護の必要がある高齢者が多い有料老人ホームであれば、スプリンクラーなどの設置が義務付けられる。費用がかさむのを嫌って、届け出を怠っていたのか」
「業所の代表は『申し訳ないという気持ちでいっぱいだ』と謝罪した。関係者は『弱者救済のためだった』と強調している」

読売社説が指摘するように運営側はできる限り費用を抑えようと考え、届け出をしなかったのだろう。「弱者救済のため」という言い方も難しい。結果的に11人の命が奪われ、5人が焼け出されたのだ。その責任は重い。