作家の石牟礼道子(いしむれ・みちこ)さんが亡くなった。代表作『苦海浄土(くがいじょうど)』は、「水俣病」の現実を描いたノンフィクション作品で、水俣病が注目されるきっかけをつくった。石牟礼さんの死去について、5つの全国紙のうち社説で論じたのは朝日と毎日だけだった。2紙はなにを訴えたのか――。
2016年10月29日、水俣病犠牲者慰霊式で、献花して手を合わせる水俣病患者ら(写真=時事通信フォト)

公害とは利益追求の落とし子である

作家の石牟礼道子(いしむれ・みちこ)さんが2月10日、パーキンソン病による急性増悪のため、熊本市東区の介護施設で死去した。90歳だった。石牟礼さんは四大公害病の一つ、水俣病の現実を描いた『苦海浄土(くがいじょうど)』で知られる。

1927(昭和2)年に熊本県で生まれ、水俣実務学校(現・県立水俣高)を卒業、代用教員となった後、主婦となり、短歌の投稿など文学活動を始めた。

「苦海浄土」は1969年に刊行された。水俣病に苦しみ、言葉までも奪われた患者たちの思いをひとつずつ丁寧に拾い上げた作品で、大反響を呼び、水俣病が注目されるきっかけとなった。

この石牟礼さんの死去を毎日新聞と朝日新聞が社説で取り上げた。

毎日社説は「公害は、あくなき発達と利益追求文明の落とし子でもある」と指摘し、朝日社説は「権力は真相を覆い隠し、民を翻弄し、都合が悪くなると切り捨てる。そんな構図を、静かな言葉で明らかにした」と説明する。

その通りだと思う。この2つの社説を読みながら石牟礼さんの生き方と公害についてあらためて考えてみたい。

人間と共同体の破壊を告発

2月11日付の毎日社説は「心は本当に満ち足りているのだろうか」と書き出し、石牟礼さんが「改めて私たちに問いかけているような気がする」と指摘する。

そのうえで『苦海浄土』を取り上げてこう解説する。

「鋭く繊細な文学的感性で水俣病の実相をとらえ、公害がもたらす『人間と共同体の破壊』を告発した」
「高度経済成長に浮かれる社会に衝撃を与え、公害行政を進める契機ともなった」

毎日社説は水俣病に対する国の対応の鈍さも指摘していく。

「56年、熊本県水俣市で原因不明の病続発が保健所に通報され、水俣病は公になる。だが、チッソが海に流す排水の有機水銀による魚介類汚染が疑われても行政の動きは鈍く、ようやく68年に公害病と認定された」
「この間の放置で被害がどれだけ拡大したかわからない。公害を大きな問題にすると経済成長のブレーキになりかねないという政府内の消極姿勢、世論の無関心もあった」

当時の政府は、弱者をしっかり見ようとしない安倍政権と似ていないだろうか。いや、政府というのはいつの時代も強い者を中心に考え、彼らのために便宜を図るものなのである。強者の持ってくる利益が莫大だからだ。