世の中のありとあらゆる「成功ルール」を検証した全米ベストセラー『残酷すぎる成功法則』(飛鳥新社)。序章につづき、本書の第1章「成功するにはエリートコースを目指すべき?」を、今回特別に掲載します。「高校の首席」が億万長者になれない理由とは――。

※本稿は、エリック・バーカー(著)、橘玲(監修、翻訳)、竹中てる実(翻訳)『残酷すぎる成功法則 9割まちがえる「その常識」を科学する』(飛鳥新社)の第1章の一部を再編集したものです。

もしあなたが「痛みを感じない人」だったら?

アシュリン・ブロッカーは、先天性無痛症(CIPA)だ。

実際、彼女は生まれてこのかた痛みを感じたことがない。外見はごくふつうの10代の少女だが、SCN9A遺伝子に欠陥があるため神経伝達がうまく働かず、痛みの信号が脳に届かない。

エリック・バーカー(著)、橘玲(監修、翻訳)、竹中てる実(翻訳)『残酷すぎる成功法則 9割まちがえる「その常識」を科学する』(飛鳥新社)

痛みを感じないなら楽だ、と思うだろうか? 待ってほしい。ダン・イノウエ上院議員が次のように説明する通りだろう。

「子どもなら誰しもスーパーヒーローに憧れる。痛みを感じない先天性無痛症の子たちもスーパーマンのように扱われるが、皮肉なことに、その“超能力”自体が彼らの命を危険にさらす」

ジャスティン・ヘッカートによる『ニューヨーク・タイムズ・マガジン』誌の記事によると、両親が異変に気づくまで、アシュリンは骨折した踵でまる2日も走りまわっていた。やはり先天性無痛症のカレン・カンは、第1子の出産で骨盤を粉砕していながら、数週間経って腰回りの筋肉が硬直して歩けなくなるまで、その事実にまったく気づかなかったという。

けがや病気の痛みとも無縁になるが……

先天性無痛症の患者は寿命が短い傾向にあり、小児期に亡くなることも珍しくない。乳児のじつに半数が、4歳の誕生日を迎えることができない。けがを恐れる両親に幾重にもくるまれ、体温が上がりすぎても泣き声一つあげない。無事に育っても、舌先を噛み切ってしまったり、目を擦りすぎて角膜をひどく損傷したりする。成人しても生傷がたえず、骨折をくり返す。目で見て初めてあざや切り傷、やけどなどの異常に気づくので、毎日自分の体をチェックしなければならない。虫垂炎など、内臓の問題になるととりわけ深刻だ。本人は何の症状も感じないまま、亡くなってしまうこともある。

それでも、アシュリンのようになってみたい! と一瞬でも思う人は多いかもしれない。歯の治療が怖くなくなるし、けがや病気の痛みとも無縁だ。偏頭痛や腰痛に悩まされることもない。

医療費と生産性の低下という観点からすると、痛みによる損失は、アメリカで年間約65兆~74兆円にものぼる。アメリカ人の15%は慢性痛に悩まされているので、喜んでアシュリンと替わりたいと言う者は少なくないだろう。

リスクを最小限にする生き方は成功への道だろうか?

ベストセラー小説『ミレニアム2 火と戯れる女』(ハヤカワ・ミステリ文庫)に登場する悪漢の1人は先天性無痛症で、この病気が超人的な能力として描かれている。プロボクサーであるうえに無痛症というその悪漢は、歯止めの利かない強大な力をもった真に恐るべき敵だった。

こんな風に、私たちの弱点がじつは強みに変わるのはどんなときだろう? もしかしたら、ハンディとスーパーパワーをあわせ持つ、統計でいえば“はずれ値”の者のほうが有利なのではないか? それとも、釣り鐘曲線の真ん中に位置するほうが幸せな人生を歩めるだろうか? 多くの人は、危険を冒さず、既定路線を生きるように奨励されている。しかし、つねに規定された「正しいこと」を行い、リスクを最小限にする生き方は成功への道だろうか? もしかしたらそれは、凡庸な人生への道ではないだろうか?

この疑問を解くために、つねに規則を守り、正しい行いをしている模範生を見てみよう。高校の首席たちは、どんな人生を歩むのだろう? わが子が首席になることは、親たちの夢だ。母親たちは「一生懸命勉強すればいい人生が約束される」と子どもに言う。多くの場合、それは正しい。

だが、いつもそうとは限らない。