競技者兼研究者というスタイル
“文武一道”の行く末に、近藤は何を見ているのか。聞くとこんな答えが返ってきた。
「競技者としては長距離という種目を突き詰めたいです。ただ、やみくもに走って突き詰めた気にはなりたくない。競技者兼研究者のような感じですけど、積極的に情報を仕入れて、必要あれば自分の身体で実験をして、それを競技に落とし込んでいくことが、本当の意味で突き詰めたと言えるんじゃないかな、と」
コーチの竹井氏は言う。
「アメリカのカレッジスポーツ(NCAA=全米大学体育協会)では、学業の成績が悪いとスポーツができないシステムがある。日本の大学スポーツも今後そういう方向に進んでいくと思います。勉強も競技もやる。その結果、学生スポーツの価値自体も上がっていくと思うので、僕たちの取り組みが、その流れの一端になれたらいいかな、とは思います」
東大には今、スポーツ系の学部はないものの、全学的にスポーツに関連する研究者を集結させようという取り組みが始動している。『東京大学スポーツ先端科学研究拠点(UTSSI)』という名称で、2016年5月に設立された。異分野の研究者が集まり、学際的にスポーツ・健康科学研究の推進を図るというものだ。石岡氏はこう語る。
「研究のための研究ではなく、いかに社会実装していくかだと思うんです。2020年を1つの基点として研究者たちが協力し始めているそのタイミングに、近藤選手や宮台選手が出てきた。時代の流れを感じますね」
“文武両道”から“文武一道”へ。東大のスポーツ領域における動きは、学生スポーツの行く先を照射している。そして近藤は、長距離ランナーという枠組みを超えた1つのロールモデルとして、学生アスリートの選択肢を広げる役割も担いうるのかもしれない。
(文中一部敬称略)