時間的制約のために、必要に迫られて効率化の道を模索していた近藤だが、軌を一にする竹井氏とのマッチアップにより、制約をクリアしながら着実に競技レベルを向上、安定させてきた。

「強豪校は練習に時間が取れますし、ボリュームを追求する方法で結果も出しているので、それが間違っているわけではありません。ただ、竹井さんのアドバイスがあってここまで力を付けられたという思いがあるので『こういうやり方もある』という選択肢を示すことで、非強豪校の選手の可能性を広げたい。自分自身が強くなりたいという気持ちの先にあるその思いが、モチベーションにもなっていますね」(近藤)

文武両道の新たな解釈とは

近藤は、明確な競技観を持っている。昨年末、東大で開催されたシンポジウムに、宮台康平(硬式野球部、北海道日本ハムファイターズ入団予定)と共に出席した際に、こう話していた。

17年10月、箱根駅伝予選会で力走す近藤秀一選手。

「“文武両道”という言葉がありますが、私は学業とスポーツの間に壁を作らないようにしています。1つの物事の真理を追究していく点では共通していますから、双方の両立で苦労するという感覚はありません」

この発言の背景を、近藤に直接聞くと、「好きなものが2つあれば、それをどうやって結びつけられるかな、と考えることが大事な気がします」と説明してくれた。

「陸上は個人競技で、自律しなくてはいけない場面が多いので、その点で勉強と親和性があったのかもしれません。取り組む対象は違っても同じスタンスで受験に臨んだら上手くいったというのが正直なところです。大学に入る前は、目標から逆算するという面で競技と受験勉強で重複があったので、陸上で培った能力がそのまま勉強に生かされたという感じです。それが大学に入ってからは陸上と勉強の切り替えをまったく意識しなくなりました。高校と大学で“文武両道”という言葉への向き合い方が変わってきている気がしますね」

「競技をやるにしても専門知識を仕入れて、自分の経験則を踏まえて発展させていくという点では、アカデミックな領域とそう変わんないのかなと思っています。自分の場合だったら生命科学とかを勉強する学科なので、それが競技におけるエネルギー代謝の知識と関わってきたり。何を突き詰めているのかといえば、結局、陸上競技を突き詰めているんですけど、いろいろな領域が混ざり合っている感覚ですね」

“文”と“武”の境界が薄れる。この点について、東大で運動部への寄付事業を担当する東京大学・渉外本部シニアディレクターの石岡吉泰氏もこう主張する。

「私は最近“文武一道”という言葉をよく使っていまして。一緒の道ですよ、と。近藤選手も似た感覚なんじゃないかと思うんです。竹井さんたちのサポートを受けながらコンディショニングをして、アカデミックな方向からも自分を高めようとしていますよね。一芸に秀でるものは全てに通じるという言葉もありますが、いかに汎化するかだと思う。『“文”が終わった、“武”をやろう』ではなくて、互いに関連しあっているイメージです」