スポーツと学業の両立は難しいのか。長い練習時間をとれば、どうしても学業は疎かになる。だが学業にかける時間で、効率的な練習を「研究」できれば、長時間の練習は必要ない。今年の箱根駅伝に出場予定だった東京大学の近藤秀一選手が挑む「文武一道」とは――。

2月の東京マラソンが直近のターゲット

近藤秀一は、今年の箱根駅伝に、東大生として13年ぶりに出場する予定だった。だが、年末にインフルエンザを発症し、その機会を逃した。出場予定だったチームは東京大学ではなく、合同チームの「関東学生連合」。近藤は、昨年と一昨年の大会では関東学生連合の最終選考に残っており、出場まであと一歩だった。

東大3年の近藤秀一選手。東大生13年ぶりとなる箱根駅伝の出場が期待されたが、インフルエンザで出場はならなかった。

箱根駅伝閉幕から約10日後、体調も回復した近藤は東大駒場キャンパス内のトラックでポイント練習を行っていた。トレーニング終了後、10日前を思い出して苦笑しながら言った。

「今は9割ぐらいの体調まで戻っています。来年の箱根では学生連合がどんな扱いになるか分からないので、当面はマラソンを意識したいと考えています」

近藤は2019年に開催される東京五輪のマラソン代表選考レース『マラソングランドチャンピオンシップ(MGC)』の出場権獲得を狙っているため、MGCが指定するレースで所定の実績を残すことを目標に置いている。「現実的な目標を定めていきたい」という近藤にとっては、2月に開催される東京マラソンが直近のターゲットだ。「東大で箱根」という目標を捨てたわけではないが、2つの目標は地続きでもある。

制約からこそ生まれる変化

理系学部に在籍する近藤には実験などの実技授業が頻繁にあり、トレーニングも臨機応変に変更しなくてはならない。時間的制約の中で他校のランナーに比肩するために、ベストな選択肢は何か。答えは身近にあった。

東大陸上部のコーチを務める竹井尚也氏は、高校時代に100m走で国体3位の実績を残した後、一般入試で早稲田大に進学し競走部に在籍。卒業後は東大大学院に進み、現在は博士課程で身体運動科学分野の研究室に所属している。主に運動時のエネルギー代謝に関する研究を行っており、そこで得た知見を選手指導にも活用している。

近藤は大学2年の春から、竹井氏と二人三脚で科学的根拠に基づいたトレーニングを行っている。長距離トレーニングでは“走行距離を積む”ということが常識になっているが、その常識を疑い「量より質」を重視。その上で、科学的数値を測定しながらメニューを最適化させていくことにより、効率的にトレーニングを行っている。このような手法をとる竹井氏には、研究者としての探究心の他にもうひとつの思いがある。

「上手く練習の強度を高めながら走行距離を少なくして、学業に費やす時間も確保していこうというのが基本的な考えです。学生スポーツでは、卒業と同時に競技を終える人も多いので、もう少しトレーニングボリュームを減らして他の活動ができる時間を持てれば、競技を終えても活躍できる人間になりうるのではないか、と」(竹井氏)