これにより、本当の意味でのファクトベースの顧客のセグメンテーションや、ターゲティングが可能となる。効率的に新規顧客を獲得し、既存顧客を維持し、ロイヤリティを向上させることができる。消費者にとっても、あらゆる情報が大量に送りつけられる状態が解消され、関連性の高い情報が提供される。カスタマーとの関係をより丁寧に定義して事業活動に反映するカスタマーストラテジーの実現のためにデジタル化は必須なのである。

取り組みの前提としての顧客情報の統合管理の取り組みを進めようとしているのは心強い。社内に散逸する顧客データは一カ所に集めれば思うよりも多くある。まずはそのデータを集め、活用しきることが重要である。

2)「SCM・製造」領域におけるデジタル化の推進

SCM・製造領域においては、デジタル化による省力化、自動化を進めることで、コスト削減のみならず、生産現場で深刻になりつつある人手不足への対応が可能となる。一方、デジタル化による省力化は同時に、作るという行為を形式知化し、製造機能の価値の低下と、マージンの縮小をもたらす。製造業は今後より大きな試練に直面する。

このためメーカー各社は、IoTの活用などのサービスビジネスの確立や、消費者との接点を強めるなど下流への進出を急ぎ、従来からのモノづくりのみの事業構造からの脱却を目指している。

ここで重要なのは、サービス化を伴う事業の構築力や、分析力、顧客や消費者への理解力の向上を自ら行うことである。自社の製品とその製造プロセスの飽くなき改善を続けるという活動と、顧客の困りごとを自社の製品のみならず関連プレーヤーとの連携により解決していこうという活動は全く質の異なるものである。この新しい能力の獲得や、新しいビジネスの行い方の確立は容易ではないが、デジタル化時代において引き続き意味のある立ち位置を有し続けるためには、この変革を実現しきらなくてはならない。

AIやロボティクスの時代は、日本の高度なモノづくりが必要になるため、日本に一大産業が生まれるという可能性も期待されている。新興国企業にはできないような技術を日本企業が開発できるかもしれないが、日本企業同士の同質的な消耗戦が継続するのでは、やはり利益なき繁忙に甘んじるのみである、