もちろん本田さんが所属する遺言相談サポートセンターなどの窓口でも、遺言作成のアドバイスを行っている。

が、そうはいっても、老親に「遺言を書いてほしい」と切り出すのは嫌なもの。億劫がっているうちに親が病に倒れてしまい、病床ではなおさら遺言を書けとはいいにくくなる、というのが一般的なケースではないだろうか。

実をいうと、百戦練磨の専門家にしても事情は同じ。埼玉・草加市を拠点に活躍する税理士の吉澤大さんは、関与先には遺言の効用を説くプロ中のプロだが、自らの父が亡くなったときは「専門家として恥ずかしいのですが、遺言の準備がなく相続問題ではかなり苦労しました」と打ち明ける。

「揉めそう」なら弁護士へ

いざ親が亡くなったとき、どんな手続きが必要になるのか。吉澤さんに解説してもらった。「最初に手がけるのは『財産の洗い出し』です。その後、死亡時から3カ月以内に、相続人は相続をするかしないかの意思表示をしなければなりません。また、4カ月以内に年度途中までの故人の収入に関する『準確定申告』、必要な場合は10カ月以内に相続税の申告を行わなければなりません。そのうえで、細かな手続きが必要でたいへん骨が折れる遺産分割協議や、不動産登記の変更などに入っていきます」

とにかくさまざまな実務が必要なのだが、このうち財産の洗い出しや税の申告は、もちろん税理士の得意分野。他方、不動産登記は司法書士が専門家であり、遺産分割協議などで紛争性があれば弁護士の出番となる。

ということは、実際の相続にはこれら複数の“士業”の人たちがチームプレーで当たることになるのである。実際、吉澤さんの事務所では「優秀な弁護士や司法書士、不動産鑑定士などの専門家とアライアンス(提携関係)を結んで取り組みます」という。

その場合、窓口は税理士であっても弁護士や司法書士であっても構わないということになる。ある意味で安心な答えである。

ところが、ここでまた不安が首をもたげる。税理士といえば中小企業や自営業者を顧客に持ち、どちらかといえば資産家層の“味方”である。弁護士や司法書士も、一般のサラリーマンにとっては馴染みのある人々ではない。

また、税理士に関しては「料金体系が不明瞭で高額な場合が多い」(別の“士業”関係者)、弁護士についても「相続財産の額によって報酬が上下するので、金持ちの案件を優先しがち」(法律事務所関係者)という批判があり、資産家以外はなかなか足を向けにくい。