“制作者ならでは”の発想で突破口を開いたフジテレビに対し、「NHKオンデマンド」の事情はどうか。
NHKでは、小規模に始めて様子を見るというやり方ではなく、「最初からベストのサービスを提供する」(NHKオンデマンド室長・小原正光さん)との方針を掲げ、年間30億円という巨額の投資を続けてきた。
10年2月現在、放送直後に配信される「見逃し番組」が月に約700本、過去の大河ドラマなどの名作を提供する「特選ライブラリー」が約3900本と配信数は圧倒的。その権利処理に、手間と人件費をかけているのだ。
鳴り物入りで始めた事業だが、業績は芳しくない。08年12月のサービス開始以来、登録会員数は右肩上がりで増えているものの(2月現在、60万人)、実際に購入した人は全体の6%程度。会員増が収益に結びつかず、約22億円の収入見込みに対して09年度の実績は3億円と、苦しい戦いが続いていたのだ。
NHKの番組を好むのはITに不慣れな高齢者が多く、配信ビジネスには向かない、との指摘もあったが、ここへ来て、ようやく明るい兆しも見えてきた。転機となったのは、10年2月、「見逃し番組」の見放題パックを月945円に値下げしたこと。12月には「特選ライブラリー」にも見放題パックを導入し、1本の単価を上限210円に引き下げた。こうした試みが奏功し、価格見直しのたびに売り上げが前年四半期比で倍増したのである。
特に「特選ライブラリー」の見放題パックが好調で、10年度の収入は5億~6億円に達する見通し。「この調子なら、2年後に購入者が現在の5倍の20万人になり、単年で黒字化する」と、小原さんは自信を見せる。
「その頃には累積損失額も約80億円に膨らんでいるでしょう。しかし、いったん黒字化すれば、短期で回収できるはず。約6800億円というNHKの全体予算から考えて、そのくらいの赤字で事業を断念することはない。オンデマンド配信は、現代のライフスタイルに合っていると確信しています」
購入者は40代中心で、男性が7割、女性が3割。40代のキャリアウーマンが年下の男性と恋に落ちるドラマ「セカンドバージン」の人気で、女性の購入者が急増したことも朗報だといえるだろう。