いろんな意味で革新的なビジネスモデルだが、その要諦は、これまでコンテンツ・ビジネスの“川下”にいたケータイ配信を起点に据えたことだろう。
コンテンツの権利を押さえているから、配信のあと、テレビ局への販売や、劇場公開、DVD化、書籍化で収益を上げることができる。こうしたマルチユースも、今のところ順調に回っているという。
劇場公開に値する作品をつくるためにも一流のクリエーターやキャストの協力が不可欠だが、ケータイ向けというだけで参加をためらう人もいる。そこで導入したのが、視聴率や二次利用による売り上げに応じて、同社に入った収入の11%を印税としてスタッフやキャストに分配するモデルだ。
「ギャラはきちんとお支払いしたうえで、成果に応じて還元をする。音楽業界では当たり前のことです」(エイベックス通信放送編成企画部長・村本理恵子さん)
「BeeTV」のドラマに所属俳優を出演させる大手芸能事務所、アミューズも、この分配モデルを高く評価する。
「分配率もフェアだし、放送局の番組に出演するより条件はずっといい。エイベックスはライバル会社でもあり、最初は抵抗がありましたが、俳優本人とも話し合って出演を決めました」(第2CS事業部次長兼デジタルディストリビューション室長・大野貴広さん)
長引く不況によって、テレビ業界では制作費が年々削られている。広告収入の落ち込みは底を打ったともいわれるが、下請けの制作プロダクションの台所事情は依然として厳しい。今後は「BeeTV」のような動画コンテンツに活躍の場を求める制作者が増えても不思議はなく、優秀な人材の流出でテレビの番組制作能力が揺らぐ事態も考えられる。
暗雲漂うテレビ業界とは対照的に好調な滑り出しを見せた「BeeTV」だが、投資回収はまだまだ先の話。しかも環境は刻一刻と変化している。動画視聴に適したスマートフォンが急速に普及したのはその一例だ。
「立ち上げ時のコンセプトは、もはや新しくない。戦略の見直しが必要です。動画を基軸に、新たなビジネスモデルを打ち出して、今までにない動画の楽しみ方を提案したい」(村本さん)
現在はドコモ専用のサービスだが、将来的には、他社の携帯電話に広げることも視野に入れているという。動画配信における強力なプラットフォームとなるか。今後の展開が大いに注目される。