旧来メディアがネットを脅威と捉え、敵対視した時代は去った。ネットを活用したビジネスに、テレビ局が本腰を入れ始めたのは間違いないが、鉱脈の在り処(ありか)ははっきりしない。
暗闇のなかを手探りしている状態だが、大多さんはあくまで前向きだ。
「失敗も多いでしょうが、突然変異のように何かが生まれる可能性もある。テレビ局や権利団体の考え方も、ここ1、2年で大きく変わりました。王道は放送した番組の二次利用ですが、まったく違うものができないかと考えているところです。ネットとテレビが互いに歩み寄ったり、ケンカをしたりを繰り返すうちに、答えが出るのではないでしょうか」
注目しているのはミクシィやフェイスブックのようなソーシャル・メディアだ。「ソーシャルと地上波は親和性が高い」と判断し、昨年4月、フジテレビの番組のファンや出演者が交流できるSNS「イマつぶ」を開設した。テレビ局にしかできないコミュニティをつくって話題を盛り上げ、番組の視聴率アップと事業収益につなげる。名づけて「ソーシャル・テレビ宣言」。滑り出しはまずまずといったところ。11年度は100万人の会員(登録無料)獲得を目指し、広告収入も狙う。
こうしたフジテレビの取り組みは、他局にとっても刺激となるはず。3月には、NHKの看板番組「クローズアップ現代」が「ニコ動」と連携して放送を行うなど、従来では考えられない動きも出てきた。前述のように、テレビ局の震災特番を「ニコ動」で生放送したことも斬新な試みだ。
「ネットは道路のようなもの。誰でも利用できるインフラなのだから、テレビ局も新聞社も、それをどう使いこなすかを考えるべき。食わず嫌いで否定的な態度をとることに何のベネフィットもありません」と夏野さんは語る。
また低コストのインフラが整ったことで、マスメディアを経由せず、クリエーターがコンテンツを直にユーザーに届けることも可能になってきた。
サザンオールスターズや福山雅治らが所属するアミューズの執行役員・宮腰俊男さんは、「メディアを選択し、最適な形でユーザーに届けるのが私たちの使命。いまは過渡期ですが、デジタルコンテンツを企画制作・直販する一気通貫のモデルにも挑戦しています。アーティストを抱えているので、権利関係のコントロールや彼らに対する利益還元がきちんとできるのも利点です」と語る。
同社やエイベックスのように組織力のあるマネジメント会社なら、これまでテレビ局が担ってきたコンテンツの制作、流通という機能も代行可能だということ。過去50年最強のプラットフォームとして君臨した地上波テレビのビジネスモデルは、大きな曲がり角に来ているといえる。
夏野さんはこれを「むしろチャンスと捉えよ」と説く。
「環境の変化に対応しない生物は滅亡するだけ。テレビ局だけじゃない。どの企業でも同じですよ」
ネット時代への順応――その巧拙が、テレビの未来を握っている。