欧米で社会派ネタが多いワケ

僕は日本に来たとき、日本のお笑いが政治や宗教、人種といった社会ネタをあまりやらないことに驚きました。欧米ではこれに下ネタを加えたのが四大ネタだというのが、僕の意見です。

そうしたことを題材にせずにお笑いをやっていることに、まず驚きました。そして、「じゃあこの人たちは、いったい何で笑いをとっているんだ」と興味がわいたのです。

「日本のお笑いには政治や社会風刺が足りない」というのは、今年巻き起こった「日本のお笑いはオワコン」騒動でも言われたことです(※)。

※編集部注:今年2月、脳科学者の茂木健一郎氏がツイッターに「日本のお笑い芸人たちは、上下関係や空気を読んだ笑いに終止し、権力者に批評の目を向けた笑いは皆無。後者が支配する地上波テレビはオワコン」などと投稿し、ネット上で騒動になった。

でも僕に言わせてもらえば、欧米のお笑いで、政治や宗教、人種がネタになるのは、大衆にウケるからです。これらを取り上げれば手っ取り早くウケるのがわかっているから、ネタにしていることが往々にしてあるのです。

「お笑い」に何を求めるかの違い

そうなったのには、歴史的な背景も影響しているのかもしれません。欧米でコメディアンという職業が成り立つようになったのは、もともと王様が道化師を抱えたことに始まるという話を聞いたことがあります。

権力者にはみんながすり寄ります。だから宮廷には、王様をヨイショする人しかいない。中にはそのことに気づいている賢い王様もいて、真実が知りたいと考えた。でも「ほんまのことを言え」と言ったところで、誰も言わないのがわかっているから、道化師を雇った。そしてその国の実態を、笑いにくるんで教えてもらうようになった、というのです。

時の為政者が、きつい事実を笑いにくるんで受け入れる。それは欧米で長く行われてきたことです。それだけに、政治や宗教、人種といった社会に絡む話題をネタにするのは、やっているコメディアンみんなに問題意識があるからでしょうけど、それがもはやテッパンネタだからという理由も大いにあると思います。

対して日本のお笑いは、もともとが祝福芸です。「笑う門には福来る」精神で始まっているわけですから、小難しい話だったり、誰かを揶揄したりするネタとは根本的に相いれないものなのです。

それにもし、日本人が社会派ネタをお笑いに求めているならば、もっとそのたぐいのネタにあふれているはずです。お笑い芸人たちは、「ちょっとでもウケたい」と必死になっているのですから。そう考えると、日本人自体がそういう笑いを求めていないことがわかります。

日本のお笑いが社会派じゃないからといって、「オワコン」とは言えない。それは単に、お笑いに何を求めるかという違いなのです。