どうして欧米のお笑いは大味になるのか

欧米と日本のお笑いの違いについて述べてきましたが、最後にもう一つ、大きく違うところを語っておきたいと思います。それは、ターゲット層の違いです。

日本では、ターゲットはあまり強く意識していないと思います。若者に人気か、年寄りに人気か。はたまた万人ウケする「笑点」系か、マニアックな人にしかウケないゴリゴリの大阪の深夜番組系か。その程度の差しかないと思います。

一方、たとえばアメリカだと黒人だけにターゲットを絞ったお笑い、富裕層のユダヤ人だけを狙ったお笑いと、その層ごとに笑いをとる人がいます。「同じ層だけに通じるギャグ」というのが多いんです。そうなると、万人ウケするのはどうしても誰もがわかるものということで、大味になってしまいます。

Mr.ビーンのキャラクターが生まれた理由

わかりやすい例は、日本でも一時大流行したイギリスのMr.ビーンです。Mr.ビーンに扮するローワン・アトキンソンには、コメディアンとしてだけでなく、俳優、脚本家としての顔もあります。コメディアンとしても、いろんなキャラクターをネタに持っていて、イギリスでは「Gerald Gorilla(言葉を取得しすぎたゴリラのジェラルド)」、「The man who likes toilet(トイレが好きすぎた男)」をはじめとする名キャラクターや、とんでもなく皮肉で毒舌な性格が代々受け継がれてしまう「Blackadder(ブラックアダー家の長)」という、すごくはやったキャラクターがありました。けれど、世界の人に伝わるようにと、誰もがわかるアホなおじさんである「Mr.ビーン」を売り出したのです。

Mr.ビーンは、言葉は一切なし。動きと表情、そしておかしなシチュエーションだけで、世界の人が笑えるキャラクターをつくったのです。それまでは、すごく細かい話芸や社会風刺もやっていたにもかかわらずです。

2012年のロンドンオリンピックの開会式でも、ローワン・アトキンソンはMr.ビーンとして登場しましたが、そのあと「ビーンをもう引退する」と表明しました。年を取って体を張った演技が大変になってきたのはもちろんのこと、「50代にもなって幼稚なキャラクターをやっているのが嫌になった」というようなことを、インタビューで語っていました。僕が思うに、いちばん大きいのは、初老のMr.ビーンがウケないからです。ちゃんとしたおじいさんになったら、またみんなを困らせる姿が見られると思います。

アメリカでも、広く売れようと思ったら、多少なりとも大味にならなければいけないところがあります。その点、日本はあまりターゲットを絞らずに、好きなように自分のスタイルを突き詰められる。芸人にとって、日本は素晴らしい環境やと思います。

チャド・マレーン
お笑い芸人
1979年、オーストラリア・パース生まれ。高校生の頃に留学で来日した際、日本のお笑いにハマり、卒業後、芸人養成所のNSC大阪に入学。その後、ぼんちおさむに師事。加藤貴博とお笑いコンビ「チャド・マレーン」として活動中。松本人志が監督した映画作品などの字幕翻訳や、芸人の海外公演のサポートなども行っている。
 
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