「敵基地攻撃能力に使え」と産経

産経新聞は12月13日付の社説(主張)で、「国民守るために欠かせない」との見出しで「日本の防衛力、抑止力を高める有効なものであり、これまで装備していなかった方がおかしい。導入の判断は妥当だ」と主張している。

その評価のほどは読売社説を上回る。むしろ「装備していないのがおかしい」と安倍政権を批判しているぐらいだ。さすが「右翼新聞」といわれるだけはある。この社説を読めば、安倍晋三首相はうれしさを超えて、きっと驚くに違いない。

さらに産経社説は「政府は『敵基地攻撃を目的としたものではない』としている。だが、長い射程を生かし、対日攻撃をもくろむミサイル発射台を叩く『敵基地攻撃能力』へと発展させることが可能であり、そうすべきだ」と書く。

政府の見解を飛び越えて「敵基地攻撃能力」の保有を強く促す。産経らしいといえばそうだが、沙鴎一歩の考えからすると、納得し難い主張である。社説を担当する論説委員の会議では、巡航ミサイル導入を疑問視する意見は出なかったのだろうか。または意見が出たとしても抹殺されてしまったのか。

社説の後半で「専守防衛に触れる恐れがあるとして、さっそく長距離巡航ミサイル導入への反対論や慎重論が与野党から出ているのは残念だ」と書いているぐらいだから、きっと抹殺されたのだろう。

最後に産経社説は「中国や北朝鮮の脅威を眼前にしてなお、自衛隊の手足を縛る『専守防衛』にこだわりたいのか。国民を守る視点を優先しない議論は、日本の防衛意思を疑わせ、抑止力を損なう」と訴える。

どうしてそこまで専守防衛を嫌うのだろうか。昭和の高度経済成長のなかで敗戦国の日本が生き残れたのは、この専守防衛のおかげだ。世界に向けて専守防衛を掲げ、軍事力をアメリカに任せたからこそ、日本は経済力を高めることに全力投球でき、そしてみごとに経済大国を成し遂げた。

アメリカは北朝鮮の核開発を“抑止”できなかった

抑止力とは何か。読売社説は「確実に反撃する手段を持つことは、相手に攻撃を思いとどまらせる抑止力にもつながる」と指摘し、産経社説は「抑止力を高める有効なもの」と書く。

12月12日の毎日新聞夕刊には客員編集委員の牧太郎さんのコラム「大きな声では言えないが…」がある。各紙の社説よりも説得力のある内容だったので、紹介したい。牧さんはこう指摘している。

「早い話が、約7000発の核を持つアメリカは北朝鮮の核開発を“抑止”できなかった。“抑止”どころか、万一、朝鮮半島で核が使われたら(それがアメリカのものであっても、北朝鮮のものであっても、事故による暴発であっても)世界は壊滅的な被害を受ける。核は存在自体が『狂気』なのだ」

まったくその通りだと思う。このままいくと、北朝鮮は米国本土を正確に攻撃できる核兵器と大陸間弾道ミサイル(ICBM)を開発し、交渉で有利な立場に立って「核抑止力としての核保有」を世界に認めさせるだろう。それが北朝鮮の狙いだからだ。

抑止力とは、核のような強力な兵器を持つための建前に過ぎないのである。大切なのは牧さんがいうように「核自体が狂気であり、兵器自体が気違いじみている」ことを世界の国々が自覚することだ。

新聞をはじめとするジャーナリズムはそれを訴え続けなければ私たちの未来はない。

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