ここからは、韓国で発行されている資料をもとに、ここ数年間の北朝鮮の水産業の状況をもう少し掘り下げてみたい。
韓国産業銀行が発行しているレポートによると、北朝鮮経済全体の中で農林水産業が占める規模の割合は、2014年の段階で約22%とされている。12~14年の部門成長率では、年平均2.3%。この数字は、軽工業部門が占める割合(2.5%)と並んで、他部門(1.5%から-0.4%成長)をはるかに上回る水準である。特に水産業は「国家経済を支える非常に重要な産業分野になっている」というのがレポートの分析だ。
金正恩氏が国家最高指導者になった後、水産業の重要性はことさら強調されるようになった。主な目標は「国民の栄養問題解決」と「政権の新人民的性格のアピール」、そして「外貨獲得」だ。13年には、「8月25日水産事業所」など模範的な水産事業所が全国的に紹介され始め、同年末には軍水産部門のエリートたちを集めた「熱誠者会議」も開催されている。そして翌14年1月には、「新年の辞」で「水産業を発展させるべし」との言及とともに、「漁獲戦闘」という“国民的漁業運動”の開始を宣言。15年に入ると、水産業が労働党および内閣の「15年主要産業」に採択され、国の最重要課題のひとつに挙げられるようになった。
金正恩が直々に水産事業所を視察
北朝鮮の水産業を牽引するのは軍である。北朝鮮指導部は、軍を漁獲量増産の「模範単位」として表彰し、民間部門にその熱が拡散するようなシステムを構築しようとしている。軍は人材が動員でき、責任も明確だ。そのため、目標とする生産力向上を短期間で実現する労働力母体としてはうってつけというわけだ。前述の「8月25日水産事業所」も、軍部隊傘下の事業体である。また、第810軍部隊傘下では、3つの養殖場・漁業事業所が運営されており、過去には金正恩氏が同部隊を直接視察する姿が報じられた。
北朝鮮の主要な水産事業所としては、まず西海岸側に「リョンアンポ水産事業所」「チョルサン水産事業所」「チョンス水産事業所」「ムンドクス産事業所」「ハンチョン水産事業所」「ナムポ水産事業所」などがある。また、大規模な養殖場も5つほどあることが確認されている。一方、日本海側の主要な拠点は、「1月8日水産事業所」「5月27日水産事業所」「シンポ水産事業所」「ウォンサン水産事業所」など。加えて、約40カ所の養殖場があるとされている。養殖場で主に生産されているのは、真昆布、ムール貝、カキなどだ。