「より多くの魚を捕まえよ」という指示
北朝鮮の漁船が、日本海沿岸に相次いで漂着している。海上保安庁の集計によると、漂流・漂着が確認された北朝鮮船舶に関する事案は、2013年から今年12月にかけて合計299件にのぼっている。今年11月は前年同時期に比べ4倍にも増え、28件となった。12月8日には、北海道・松前小島に上陸し、発電機などを盗んだ疑いで調査を受けていた北朝鮮漁船の乗組員らが、係留されていた船舶で逃走を図り、海上保安部に改めて追跡・拿捕されるという事件もあった。
北朝鮮漁船の漂流・漂着が頻発している理由について、日本および海外の北朝鮮専門家らは、最高指導者である金正恩氏、そして北朝鮮政府が掲げる水産業に関する国家的指針と深く関係しているのではないかと分析している。
金正恩氏は2011年に政権の座に就いた後、毎年11月から12月にかけて、人民軍傘下の水産事業所(水産業の拠点)を欠かさず訪問している。そして「より多くの魚を捕まえ、全国の保育園、小中学校、老人ホームに届ける」(朝鮮中央テレビ)ことを目標として、関係各所に増産を指示している。今年は国家の年間重要課題を示唆する「新年の辞」でも「水産業を画期的に発展させ、人民生活の向上に大きな前進をもたらさなければならない」と強調した。
朝鮮労働党の機関紙・労働新聞も、11月に掲載した社説で「冬季の漁業は、年間水産物生産において意義を持つ重要な戦い」と説明。「一時も海を空けず、1分1秒を惜しみながら一匹でも多く魚を捕まえろ」と漁獲生産量の増産を指示している。加えて朝鮮中央テレビも「『魚は近い海でも獲り、遠い海で獲るときは行き帰り両方獲らなければならない』とした偉大な首領様たちの遺訓を徹底的に貫徹せよ」と国民をあおり立てている。こうした動きについては、「食糧難が深刻化する冬季を控え、民心掌握のために国を挙げて漁業への注力をアピールする狙いがあるのではないか」(韓国メディア・YTN)といった見立てが、メディアおよび識者・専門家らの中で主流となっている。
実際、北朝鮮が運営する海外向けウェブサイト「朝鮮の今日」は、今年12月1日に「東海地区(日本海側)の水産事業所において冬季集中漁業戦闘が開始され、現在までに3万トンの魚を獲った」「不利な海の気象条件下でも、中心となる漁場を機動的に攻略。一網で20トン以上の魚を捕まえるなど、その成果を拡大し続けている」などと自国漁業の“好調ぶり”を報じている。こうした報道では、漂流・漂着が相次いで起こっている状況には触れられていない。