北朝鮮の水産加工物は、ここ数年の間に、同国北東部にある羅津港~中国・琿春エリアというルートを通じて出荷されることが増えているという。12年から13年にかけて、琿春には北朝鮮産の水産物を取り扱う交易センターや、水産物加工施設、冷凍倉庫設備が完備され、そこから中国の内陸部に、北朝鮮産のズワイガニやロブスターなど10種類あまりの水産加工物が多く流通し始めているそうだ。なお、北朝鮮の水産関連の貿易会社としては、合計19社(軍関連9社、党関連2社、内閣関連4社、所属不明4社)が確認されている。

こう見ると、北朝鮮の漁業や水産業は堅調に推移しているかのように見えるが、実態はそうではない。

水と油を混ぜて燃料にする漁民も

国家指導部が国民に漁業の重要性や、順調ぶりをアピールし続けている一方で、北朝鮮漁民の操業環境は日ごとに劣悪になっていると言われている。北朝鮮は毎年3000万ドル(約30億円)を受け取る見返りに、約1500隻の漁船が北朝鮮近海で操業する権利=漁業権を中国に売り渡してしまっている。

韓国での報道によれば、売り渡したとされる漁場は、北朝鮮の西岸から約20キロメートルに位置するぺクニョン島西部、および約10キロメートルに位置する延坪島付近、また日本海側では北方限界線(NLL)付近などと推測されている。そのため、北朝鮮の漁民は貧相な木造船で、遠方まで漁に出かけなければならなくなった。漁獲量の目標を達成するためには、「漁場がないから」では済まされない。

しかも経済制裁によって燃料が不足しているため、漁民の船舶では水と油を混ぜて使用することが多々あるそうだ。結果、故障の原因となり、漂流・漂着が多発していると言われている。

また、ここ数年、北朝鮮では遠洋漁業船が増加傾向にあると言われている。なかでも日本においてたびたび目撃されている「イカ漁船」の増加は顕著で、11年15隻、12年80隻から、13年110隻、14年400隻とハイペースで増え続けていることが確認されている。前述したように、13年頃から北朝鮮の漁船が頻繁に日本海沿岸に漂着しているとの海上保安庁の統計があるが、その背景に、北朝鮮の政策の強化があったことはまず間違いなさそうである。

韓国紙記者は「イカ漁などは、北朝鮮漁民の裏の外貨稼ぎの手段になっているという報道があります。これは一部正しいと思いますが、大局的には国策としての水産業強化があり、その流れのなかで遠洋漁業が活発化しつつ、事故も多発するようになったと見たほうが、より正しいかもしれません」と説明する。