日本語を話せないフランス人が「Amazing!」を繰り返した

2017年1月に発表会が開催された時、記事を読んだ筆者は「スマートフォンが普及し、双方向でやりとりできる翻訳アプリがいくつも登場してきているのに、一方向しか訳せない翻訳機を出して、果たして意味があるのだろうか?」と疑問に思ったのを覚えている。

しかし今回この記事を書くに当たり、実際に使わなくては分からないと思い、日英・英日のイリーを1本ずつ借りて、外国人と会話してみることにした。テストに付き合ってくれたのは、日本語はほとんどわからないが、英語は話せるという日本在住のフランス人だ。

中央のボタンを押しながら日本語で話しかけると、瞬時に英語に翻訳してくれる。

彼の顔を見ながらイリーに向かって「パスポートを無くしました」と言うと、その瞬間日本語がわからない彼はキョトンとしている。しかしすぐに「I lost my passport.」とイリーから英語が聞こえた瞬間、「Really!?」と驚いて崩れ落ちた。その後、彼はイリーに二言三言英語で話しかけ、そのたびに「Amazing!」と繰り返した。私たちが外国に行って現地の言葉が分からず困っているように、日本語をまったく理解できない訪日外国人たちも悩んでいるのだ。それゆえに、相手の言っていることが分かるというだけでも、イリーは相当大きなインパクトがあったようだ。

彼に英日バージョンを渡して、簡単に使い方を教えてみたところ、翻訳されるという興奮のあまり話が止まらない。「話は短く!」と何度言っても、立て続けに話しかけるので、まともに翻訳されたのは冒頭だけという状態になってしまった。

これはイリーの苦手とする部分で、長くて複雑な文章になると、きちんと訳せない(後述)。それでも「自分もそうだけど、日本に来る外国人のほとんどは日本語がまったく話せない。そういう人に、ものすごくいいよ! 日本に来る外国人は、これを使ったほうがいい」と絶賛していた。

私は普段、外国人と英語のやりとりに困ると、スマートフォンの翻訳アプリを使うことが多い。便利なのだが、入力する間「Please wait!」といって、会話を中断しなくてはならず、このあいだどうしても無言の時間になってしまう。相手を待たせることになるのがもどかしかった。

しかし、イリーは早かった。ボタンを押しながら日本語を話し、ボタンから指を離せば即座に翻訳される。すぐ使えてとても簡単だ。しかも、「ヘンな棒が翻訳した」という強烈なインパクトが伴うため、その場が一気に和むというおまけ付きである。

彼の反応を見て、正直、イリーを侮っていたことを実感した。中学から大学までこれまで英語の時間は数百時間あったはずなのに、筆者はいまだに英語の日常会話に困ってしまう。しかし、イリーは旅行限定ではあるものの、いきなり日常会話レベルに到達できるデバイスだったのだ。

イリーはどんな経緯で開発されたのか?

イリーは、ログバーの社長である吉田卓郎氏が、若き日に米国に留学した経験をもとに開発されている。現在は打ち合わせも英語でこなせるという吉田氏だが、かつては言いたいことがまったく伝わらなかったそうだ。

電子辞書を3台も持っていっても、会話の現場では使えなかった。しかし、徐々に英語を習得する中で、「(いま振り返ると、英語が)少ししゃべれる、まぁまぁしゃべれるという時期が一番楽しかった」と述べている。話せることが当たり前ではなく、わかり始めたがゆえの感動があるからだろう。

英語は話せるようになった吉田氏だが、中国語はまったく分からないそうだ。「僕はもう長時間勉強したくない。一気に旅行レベルになれるものが欲しい! でもインターネット接続不要がいい。シンプルがいい。パッととりだしてパッと使えるものがいい。この3つの特徴があれば僕が欲しいものだ」と動画の中で語っている。こうしてイリーが誕生したのだ。

2017年1月のイリー発表会の反響は、世界中に広まった。本格的にサービスインした6月1日までの間に、さまざまな言語で、数千件にのぼる問い合わせが殺到したという。

イオンモールで、外国人観光客の接客にイリーを使っている様子(法人用モデル)