ほぼ、外堀(だけでなく、内堀までも)が埋まった上で、「3-5ルール」に基づく事業採算性の検討が、経営企画部等の担当部署に依頼されることになる。担当部署は、提案された投資案に成算があるかどうかを、プロフェッショナルとして検討し、検討結果をトップマネジメントに答申するのが業務である。しかし、トップマネジメントが是非とも実施したいと考えている投資案に問題がありと明らかになったときにでも、それをトップマネジメントにありのままに伝えてきただろうか。

正直に分析結果をトップマネジメントに伝える企業は健全である。しかし、そのような企業はそれほど多くはない。トップの方針が決まっている以上、それをサポートする情報を提供しなければならないと考える傾向が強い。「上司やトップマネジメントの意向に沿ったシミュレーションやレポート作成を行ったことがあるか」とこれまでになんども社会人大学院生に質問したことがある。驚くべきことに、7割を超える人たちが「そのような経験がある」と回答している。

「3-5ルール」が存在する企業では、採算性には問題があるにも関わらず、「3年で単年度黒字、5年で累積損失一掃」となるように、計算数値を操作してしまうのである。このような行動が、投資の失敗につながる。

投資案が戦略実現のために必要で、採算性に問題がないという根拠データ(それが机上の計算で、現実的でない場合でも)があれば、そして、取締役会に投資案が上程されるまでに慎重に検討が加えられていれば、ほぼ提案は承認されることになる。これは、あしき予定調和である。

複数のシナリオを準備する

投資の失敗を少しでも減少させたければ、いくつかの手を打つ必要があるだろう。何よりも大切なことは、投資案件に関する状況分析や採算性計算を担当する部署は、与えられた業務を粛々と遂行することである。トップマネジメントの意向に沿おうとする気遣いが「忖度」につながる。嘘で塗り固められた投資採算計算に基づく決定は、将来の経営悪化のリスクを大きくする。

トップマネジメントが発想した投資案が、慎重な分析の結果、問題を抱えているという分析結果を得ても、それをもってトップマネジメントが投資案を断念する必要はない。かなりの困難があるとしても、トップマネジメントは、英断を下せばいいのである。数字は一人歩きする傾向があるので、重要な意思決定に関する数字については、その算定根拠と算定ルールを投資案に付記することも大切だろう。

また、経営企画部等は、投資案について、複数のシナリオを準備し、どのシナリオを採用するかをトップマネジメントに委ねるという方法もある。例えば、楽観シナリオと悲観シナリオの2つを準備する場合について考えてみよう。この場合、これまでの水準レベルを楽観シナリオのレベルとすることが良い。何事もうまくいくという前提でのシナリオである。一方、悲観シナリオでは、投資に関わる許認可の遅れ、事業準備の遅延、設備稼働に関する諸問題、取引先に起因したプロジェクトの遅れなどを加味したものとする。

これらの事態は、過去にも数多く経験しているはずである。想定外の事態が生じれば、投資回収計画はすぐに頓挫する。海外への事業展開では、半年遅れや一年遅れは、日常茶飯事である。それだから、投資判断は悲観シナリオを前提にして行うと良い。もっとも、よくないことばかりが起こるわけではない。想定外の神風が吹くこともあるのが経営だからだ。