いまや上場企業の8割が導入しているという「目標管理システム」。だが、評価する上司からも、評価される部下からも、非常に評判が悪い。なぜ目標管理はうまくいかないのか。経営学の「西」の雄である同志社大学大学院の加登豊教授が、その要因を解き明かし、改善の処方箋を提示する――。

なぜ企業は目標管理システムを導入したか

1990年代初頭から、日本企業の間で急速に普及した経営管理の仕組みが二つある、一つは、成果主義、そして、もう一つが成果主義を徹底するために導入された目標管理(MBO, Management by Objectives)システムである。ここでは、主として目標管理システムについて論じよう。

目標管理システムは上場企業の80%近い企業で実践されていると言われている。そして、その目的も多様である。人事考課の一環として活用する、部下の能力開発に用いる、そして、組織目標の達成手段として利用する、というのが一般的である。

「目標管理システム」は評価する上司からも、評価される部下からも、非常に評判が悪い。(写真=アフロ)

目標管理システムを活用して人事考課を行う場合、目標の達成度や達成のプロセスでの働き方などを把握することになる。人の総合評価を行う人事考課では、数値目標の達成度合いを見るだけでは不十分である。そこで、「チームメンバーとの協調性」や「仕事への取り組み姿勢」と言った定性的な項目が必要となる。

能力開発に関しては、目標を確実に達成できる能力や、経験を部下に積ませることが大切になる。目標管理システムでは、上司と部下の間で目標について意見交換を行い、最終的に両者が合意を形成し目標が確定する。上司は、部下が「頑張ればなんとか達成できる」レベルで目標に関する合意ができることを望むだろう。困難だがなんとか達成できそうな目標をクリアするプロセスで、部下の能力開発が進む。達成困難な目標を達成できれば、部下も満足感を得て、さらに挑戦的な目標に向けて業務を遂行すると考えるのである。

人事考課と能力開発は、ともに人事に関わるものであるが、最後に残った組織目標を達成する手段として目標管理を活用するという場合は、状況が少々異なる。部下との濃密なコミュニケーションを図りながら、目標に関する合意を形成する。そして、部下に適切な助言を与え、場合によっては叱咤激励し、組織一体となって目標達成を目指すのである。部下全員が目標達成できれば、組織に与えられた目標がクリアできるよう、上司は緻密に目標設定に取り組む。

▼用語解説
【目標管理システム】
上司と部下の間で面談を行い、部下自身が与えられた業務に関する目標を提示し、上司が適切な助言をし、組織目標が達成できるように目標の修正を行い、最終的に両者が合意した目標を確定させ、業務を遂行するシステムである。

【能力開発】
業務に必要な知識や経験を獲得するとともに、社員の持つポテンシャルを顕在化させる諸活動である。そのために活用されるのが、OJT、人事異動、教育・研修、そして、自己研鑽である。

【人事考課】
業績評価に加えて、社員の力量を総合的に評価する仕組み。人事考課の仕組みはわが国企業では一般的であるが、欧米企業には同様のシステムがほぼ存在しない。この事実は、あまり知られていない。

目標管理システムが円滑に機能すれば、適切な人事考課ができ、部下の能力開発も進み、されに、組織目標の達成ができる。そのような多面的な効果を期待して、多くの企業が目標管理システムを導入したものと思われる。