商品の定価に10円を足した価格で販売

とくし丸は補助金なしで地元スーパーとの共存を図りながら買い物難民対策を行う画期的なシステムを編み出し、現在38都道府県で稼働、販売車数は200台を超え、全国にその数を広げている。移動スーパーを動かすのは、とくし丸の「販売パートナー」である個人事業主で、毎朝、地元の提携スーパーの棚からその日に出向くルートの顧客の要望や好みに沿った商品を選び、トラックに載せる。顧客に販売する際は商品の定価に10円を足した価格で販売し、その利益を提携スーパーと折半する。提携スーパーの販売代行者でもあるため、売れ残った商品は夕方スーパーの棚に戻すことができ、在庫の心配をせずに毎朝新しい商品を販売できる。本部へのロイヤルティを少額の定額制にしているため、売り上げが上がるほど、利益が販売パートナーと提携スーパーに還元される仕組みだ。

顧客はおばあちゃんが多いため、販売員は「気配り上手のイケメン」が特に人気で、近隣のおばあちゃんたちを呼んで、複数人で待っていることもある。手にとって自分で選ぶことができる買い物の楽しみを味わえるのは移動販売ならでは。屋外に出ることが困難な顧客には、家の中に入って販売することも。

「冷蔵庫を載せているので、お刺し身やその日の朝作られた総菜、果物や野菜をお持ちできる。週に2回訪問するので、新鮮なものを冷凍せずに食べてもらうことができます」

客の98%が80歳前後の女性

多くの移動スーパーは地域の人々が集まりやすい広場に駐車し、客がそこに集まるスタイル。しかし、とくし丸では販売ルートを決める段階で、一軒一軒にチラシを配って説明して回り、本当に移動スーパーを必要としている高齢者を訪問するルートを組むため、要望のあった客の軒先に駐車ができる。だから数百メートル先まで歩くのが困難な高齢者も利用できるというわけだ。客の98%が80歳前後の女性だという。

「一般的なスーパーの棚には5000~1万品目の商品が並びます。そのなかから、とくし丸に載せられるのは400品目程度。同じ販売パートナーが訪問するので、お客様となじみになり、注文や要望を聞くだけでなく、好みまで把握できます。販売パートナーによっては、売ったものをメモしていて、例えばトイレットペーパーがそろそろ切れそうということまで把握して、お客様に声をかけることもあります」

その日に作られた弁当類や総菜を中心に、客はその日に欲しいと感じたものを手にとり選んで買うことができる。

一方で、販売パートナーに義務付けられているのは、買いすぎを注意すること。「例えば、お客様が3日前に豆腐を2丁買っていて今回も手にとっていたら、前のものが残っていないか確認したり、糖尿病の方が甘いものをたくさん買い込んでいたら、『これ以上甘いものを買っちゃダメ』と売り止めをします。商品の押し売りもしません」。

この5年でお客様の死亡事例が7例あったが……

こうして3日に1度顔を合わせる販売パートナーは、実の子どもより会う回数が増え、頼りにされるようになる。だからこそ、地域の見守り隊の役目も担っている。

「徳島ではこの5年でお客様の死亡事例が7例ほどありました。ご高齢のお客様が多いので病気で亡くなる方もおられますが、このうち2例は販売パートナーが直接見つけました。死亡までいかない事例は何十例もあります。倒れていて救急車を呼んだとか、いつもと違ってろれつが回っていないと異変を感じて救急車を呼んだら、脳梗塞の前兆だったということもあります」

販売パートナーは家に上がって電球を替えてとか、郵便物をポストに入れてと頼まれることも多いという。「徳島では日本郵政と提携し、とくし丸の車両で切手やハガキの販売や郵便ボックスの設置、ゆうパックの取り扱いなど試験的な取り組みを行いました」

▼移動スーパー とくし丸

運営●とくし丸

業態●主に食料品を載せた専用トラックでの移動販売

商品内容●その日に提携スーパーで手作りされた弁当や総菜をはじめ、スーパーの商品400品目1200点程度

エリア●38都道府県で200台強が稼働中

回数●週2回

特徴●とくし丸の販売パートナーである個人事業主が地元スーパーと提携し、スーパーの商品をトラックに積んで希望者の家の前で販売する。客のほとんどが80歳前後の女性。販売員は押し売りせず、買いすぎていたら売り止めもする。対面販売のため、見守り隊としての役目も担っている。配達料の代わりに、商品1点につき10円を加算する「プラス10円ルール」をとっている。徳島では「とくし丸プラス」もスタート。2~3カ月に1回のペースで衣料品の移動販売も行う。