(5)企業を主人公にする「物語」がある

実はこの“企業が「物語の主人公」になっている”という部分が非常に重要です。

宮原眼科を経営する「日出集団(DAWNCAKE)」は、2002年、台中市で頼淑芬氏によって創業されました。台湾で初めてパイナップル餡(あん)のみを使用したパイナップルケーキ「土鳳梨酥」を発売したことで有名です。

宮原眼科以外にも何店舗かの店を持っていますが、すべて地元・台中にしかありません(2017年8月現在)。それだけ地元愛が強いということでしょう。

この店は、台鐵台中駅から徒歩数分の場所にありますが、街の中心地は少し離れた場所にあるため、このあたりは数年前まで寂れていく一方だったといいます。この施設ができたことで、寂れていた台中駅前に活気が戻ってきました。

しかもただ新しい施設を創るだけでなく、地元にもともとあった建物という資源を上手に生かしながらも、自分たちの商品を生かすために、まったく新しい世界観をつくったのです。

宮原眼科ができるまで、台中市は台北と南部(高雄・台南)にはさまれて観光客は素通りすることが多かった街だったようです。しかし今や、この店に行くためだけに台湾中はもとより、世界中から観光客がやってきます。宮原眼科以外の日出集団が経営するショップもそれぞれ独自の世界観を作っていて人気があります。

自社が商売繁盛するだけでなく、街の発展にも寄与しているのです。地元を大切にしつつ、自社もともに発展していこうという企業姿勢は、まさに「物語の主人公」にふさわしいものですね。

このように、企業が物語の主人公になっていると、当然ファンになるお客さんが増えることにつながります。

川上徹也(かわかみ・てつや)
コピーライター。湘南ストーリーブランディング研究所代表。大阪大学人間科学部卒業後、大手広告会社勤務を経て独立。東京コピーライターズクラブ新人賞、フジサンケイグループ広告大賞制作者賞、広告電通賞、ACC賞など受賞歴多数。「物語で売る」という手法を体系化し「ストーリーブランディング」と名付けた第一人者としても知られる。著書に『物を売るバカ』『1行バカ売れ』『こだわりバカ』(いずれも角川新書)などがある。
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