不動産はもらったけれど相続税分の現金がない
3つめに挙げておきたいのが、せっかく作成した遺言書に不備があるケース。その代表例が、相続財産の記述漏れだ。「不動産についての指示はあるが、有価証券や預貯金についての指示がないという遺言書が少なくありません。この場合、結局は遺産分割協議書を一から作り直すことになってしまいます」と大山氏。これでは、相続トラブル回避のために遺言書を準備した意味がない。
同じくらいよくあるのが、相続税の納税についての配慮が足りない遺言書だ。例えば、「長男は不動産だけ、長女は現金だけ」と分割を指示しているようなケース。「不動産だけを相続したとしても、それにかかる相続税はキャッシュで払うのが基本。納税に必要な現金を合わせた相続プランを考えておかないと、子供がかわいそうです」(大山氏)。
相続税の専門家ではない者が作成を支援した遺言書には、こうした配慮を欠くものが少なくないという。実家の課税評価額を大幅に下げられる「小規模宅地等の特例」の適用を受けるためにも、遺言書を作成するときには、税務的なアドバイスを受けることが望ましいだろう。
もっとも現状では、遺言書を用意しておくという発想そのものが、まだまだ一般的ではないようだ。税理士法人レガシィによれば、16年に同法人に寄せられた相続相談のうち、遺言書を作っていたケースはわずか11%。課税資産額が5億円を超える富裕層の相続案件でも、18%にとどまった。だからトラブルが絶えないのだ、という見方もできる。
相続トラブルを防止するには、やはり事前の対策が有効だ。「何より親が元気なうちに、すべての相続財産を網羅し、相続税の納税にも配慮した遺言書を作っておくことです」と、大山氏はアドバイスする。
▼もめる、慌てる、最新3パターン
1:いろんな名義の通帳がゴロゴロ
被相続人が生前に、配偶者や子供の名義で少しずつ自分のお金を預金。事前の適正な贈与契約がなければ、被相続人本人の財産とみなされ相続税の課税対象に。
2:不動産が少し、現金はあまりなし
実家など不動産1~2物件が財産の中心で、現預金の額が少ないと、相続人の間で平等に分けることが困難に。都市部の「普通の相続」によくあるパターン。
3:書き漏れ多数! 困った遺言書
不動産など財産の一部についてしか記述がないと、結局は遺産分割協議書の作成が必要になり、遺言書の意味がなくなる。相続税の支払いを考慮しない配分もトラブルのもと。