「できるだけ早く」は要望にすぎない

案件が中止・延期になった場合の対応例
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案件が中止・延期になった場合の対応例

月末になると判で押したように顧客から「フラれる」営業担当者がいる。3カ月予想や月初めの会議では「必ず受注します」と報告していたのに、月末になるとその案件が延期や中止になってしまうのだ。

数字の読みが毎月のように外れるオオカミ少年のような営業担当者は、上司から信頼されない。

「なぜ月末までわからなかったんだ?」

「確度が低い案件を予算にあげるな!」

これが営業マネジャーの偽らざる気持ちだ。しかし、こうした営業担当者にはその気持ちが理解できない。

「顧客の都合だからしょうがない」

「顧客のスケジュールを営業がコントロールすることなどできない」

予算が達成できなくても、顧客の都合なら打つ手がなくても仕方ないと思い込んでいるのだ。

もちろん顧客のスケジュールを100%把握することは不可能だが、問題は「ギリギリまで延期・中止の情報をつかんでいなかった」点にある。この案件は危なそうだ、あるいは延期になりそうだというケースでは、その予兆はかなり前から出ているはずだ。

売れない営業担当者が中止・延期の予兆を把握できないのは、自分に都合のよいスケジュールを根拠がないのに信じ込んでしまうことが原因だ。顧客から「この案件はできるだけ早く進めたい」と言われるとすぐ鵜呑みにして、「このお客様は○月には契約してくれるはずです」と自分の思い込みを上司に報告してしまう。

しかし、顧客は「できるだけ早く」という要望を言ったのであって、スケジュールの話はしていない可能性がある。サービストークで、「早く始めたい」という思いを伝えただけかもしれない。希望的観測に基づいて自分に都合よく顧客の言葉を聞く「癖」は早急に直す必要がある。

トップセールスは最悪の事態を想定しつつ、顧客と時間軸を共有する。そもそも顧客に「時間」の概念を植え付けるのは営業担当者の役割だ。

たとえばアプローチの初期段階で提案を行ったところ、顧客が「話を進めたい」と言ってくれたとしよう。しかし、ここで早合点してはいけない。提案を肯定的に受け入れることと、案件をスタートさせる時期を決めることは別問題だ。初期段階では、顧客は案件にいつ取り組み始めるのかなど考えていない。具体的な実施スケジュールを立てるのはまだまだ先の話だという意識があるからだ。

そのため、営業担当者が初期段階から時間という概念を顧客に植え付けて、共有していくことが重要だといえる。

「もし導入するとしたら、いつ頃からがよろしいですか?」

「納期から逆算して考えると、具体的な検討は来月から始めたほうがよさそうですね」

そうやって仮定の話として顧客に時間軸をイメージしてもらいながら、徐々に具体的なスケジュールに落とし込み、クロージングまで共有していく。

見方を変えれば、売れる営業担当者はスケジューリングのイニシアティブを自分が握っているということだ。逆に売れない営業担当者はイニシアティブを持っていないため、相手の都合に振り回されやすくなる。

このように実施時期を仮定してスケジュールを逆算し、主導権を握るトークを私たちは「時限トーク」と呼んでいる。