9割以上が比較購入している!
大手企業の購買部門では、一つの商品を2~3社から仕入れることが常態化している。仕入れ先同士を競争させることで、1社に絞るより有利な条件で取引できるからだ。
仕入れ先を決定する際も、以前は付き合いの長い仕入れ先を優先していたのに、最近は競合する数社にも見積もりを出させるところが珍しくない。個人の消費行動も複数のチェーン店を回ったり価格比較サイトなどを参考にしたりするなど、比較購入する傾向が強くなっている。
私たちはこのような環境変化を確かめるために、法人300社と個人300人を対象にアンケート調査を行った。
最初に投げかけた質問は「購入時に複数の企業を比較検討しますか?」。
法人からの回答を見ると「比較検討は必須」と答えた会社は全体の70.7%、「ほとんどの場合、比較検討する」を合わせると9割以上の会社が日常的に比較検討している。
個人からの回答は「比較検討は必須」が44.3%、「ほとんどの場合、比較検討する」が38.0%であり、合わせると8割以上である。
「だから価格の叩き合いになるのは仕方がない」
営業担当者のそんな言い訳が聞こえてきそうだが、単純にそうとは言い切れない。次に「比較検討したのち、購入先を選ぶポイントはどこですか?」と質問したところ、最も多かった答えは法人、個人とも「商品やサービスの品質・機能、提案の内容」、二番目は「企業の信頼と信用」だった。「価格」という答えは三番目である。
この調査結果は価格だけで勝負を仕掛けても、必ずしも成功しないことを示している。逆に言えば、見積書を出す以前に勝負はついてしまっているのだ。
とはいえ、いまどき「値下げしなくていい」という顧客はいない。問題はその意図であり、それによって対応も異なってくる。
まず、競合他社との価格競争に巻き込まれて値引き要求された場合を考えてみよう。トップセールスでも売れない営業担当者でも、価格競争に巻き込まれることは日常茶飯事だ。ただしその対応を観察してみると、両者で大きく異なる。
売れない営業担当者は「価格を顧客の要望に合わせるのが自分の役割」と考える。そのため顧客に値下げを要求されると、ギリギリの価格を提示して「ウチはこれで精一杯です!」としか答えられない。
しかしトップセールスは、顧客から値下げを要求されると、感情移入を働かせる。
「なぜ値下げ要求をするのか?」
「どんな動機で要求しているのか?」
顧客の言い分にそのまま反応するのではなく、まず値下げ要求の背景にある顧客の意図や状況を把握しようとする。そのうえで、自社の提案内容や提案方法を振り返り、競合他社の提案を分析する。
「価格以外の価値が顧客にきちんと伝わっているか?」
「競合他社が自社よりメリットの大きい提案をしているのか?」
このように顧客が値引き要求する背景を分析し、その理由が見えてくれば価格とは別のメリット提案ができる可能性も出てくる。
注意すべきは、顧客は最終的な条件調整を望んでいるだけなのに「自分たちは価格競争に巻き込まれた」と勘違いすることだ。
結局、価格競争に巻き込まれてしまうのはクロージングに至る前の段階で顧客のパートナーになることができず、商談を特命(特定の1社に決めて発注すること)の形に持ち込めなかったからだ。
したがって価格競争に陥ったらどうやって値下げするかを考えるのではなく、「なぜパートナーになれなかったのか」と、顧客の立場になって考えることだ。そうしなければずっと価格競争のアリ地獄でもがき続けることになるだろう。