違いと共通性を見つけ出す

さらに考えていくと、(A)と(B)のグループはそれぞれに、もうひとつの重要な共通項をもつ。(A)に属する、安全カミソリ、TVゲーム、アイテム課金型オンラインゲーム、プリンタでは共通して、専用の消耗品やソフト(替え刃、ゲームソフト、追加コンテンツ、インクカートリッジなど)の購入が、その使用に欠かせなかったり、重要だったりする。そして、これらの産業の主要企業は、消耗品やソフトの特殊な仕様や特許によって、他社の類似品を閉め出し、アフター・マーケットを囲い込んでいる。

(B)に属するのは、自動車、建設機械、航空機、エレベーター、複写機である。このグループのなかには、消耗品やソフトの専用化が進んでいる産業もあるし、そうではない産業もある。たとえば、自動車には、ガソリンという消耗品の巨大なアフター・マーケットがあるが、自動車メーカーごとに専用化されているわけではない。一方、複写機では、トナーなどの専用化が進んでいる。

では、このグループの共通項は何か。このグループの産業に共通するのは、メンテナンスやリペアなどのサービスへの需要が大きいことである。そして、この需要を獲得しようとすれば、企業は、顧客との直接の接点となる販売店やサービス拠点などの運営へのかかわりを強めていく必要がある。クローズな販売チャネルは、この必要にこたえるのに適しているとともに、アフター・マーケットにおける、消耗品の専用化と並ぶ、もうひとつの差別化の源泉となる。

マーケティングの可能性が見えてくる

以上のKK法による複数事例分析から、何が見えてくるか。

第1に、アフター・マーケットは、企業が戦略的に取り組まなければ獲得できない。自社製品に大きなアフター・マーケットがあったとしても、常にそれが企業の収益源となるわけではない。

第2に、アフター・マーケットを収益源化するひとつの道筋は、消耗品、あるいはアクセサリやソフトウェアなどの専用化である。自社製品に必要な各種の消耗品などを専用化することができれば、オープンに幅広く販売を行いながら、企業はアフター・マーケットを囲い込むことができる。

コーヒーマシンの製造企業の多くが、粉や豆のコーヒーというアフター・マーケットを収益源にできないなかで、ネスレ日本は例外的にアフター・マーケットにおいても大きな収益をあげている。これは、ネスレ日本が、自社のマシンに専用のカートリッジで粉のコーヒーを提供しているからである。ネスレ日本が戦略的なのは、このアフター・マーケットの収益化に必要な道筋を、きちんと押さえていることである。

第3に、アフター・マーケットを企業が押さえるには、もうひとつの道筋がある。販売チャネルのクローズ化である。販売チャネルのクローズ化は、企業がリペアやメンテナンスなどのサービスにおいて、差別化された顧客との接点を実現することに貢献する。

ネスレ日本がさらに戦略的なのは、この道筋においても、オフィスでのバリスタなどの共同利用者を対象にした独自のeコマースサイトを設立し、顧客の補充購買の簡便化という差別化を実現していることである。

考えてみてほしい。専用カートリッジなどの競争戦略上の危うさは、いずれは特許切れなどの問題に直面することである。この問題へのひとつの解は、顧客が次々と最新のマシンに乗り換えるようにうながし、マシンごとに新たな特許を取得したカートリッジを導入することである。しかしコーヒーマシンは、そもそも頻繁に買い換える製品ではない。そこで浮上することになるのが、顧客の補充購買のクローズ化という、もうひとつの解である。ネスレ日本の戦略の周到さにうならされるのは、問題が顕在化する前に、このもうひとつの取り組みを開始していることに気づいたときである。