次の100年は多様なクルマが併存する
▼対談を振り返って(安井孝之)
「EVをつくるのは簡単」「EV時代にはクルマはコモディティー(汎用品)になる」という俗説が横行しているが、このインタビューシリーズでは「EVをつくるのは難しい」と結論付けた。日産の開発担当の坂本秀行副社長は「コモディティーにはならない。自動車メーカーとして(レイアウトの変更など)やれることが多くなり、むしと違いが出てくる」と言う。EVはスマホやIT家電のように主要部品を組み立てれば一定の品質が確保できる代物ではない。クルマメーカーとして蓄積したクルマ作りのノウハウが生きる商品なのだ。
日産のEV、新型リーフの航続距離が400キロに延び、「EVは普通のクルマになった」と注目された。だが依然として充電時間の短縮はままならない。急速充電だとおよそ1時間。先を急ぎがちな旅先で「ゆっくり充電しましょう」となるだろうか。自宅で充電し、買い物や週末の近場でのレジャーなら400キロで間に合うが、長期休暇で遠出となるとやや心もとない。新型リーフ発売後、受注は予想を上回る4000台の受注を達成したという。クルマの価格に見合った消費者の満足度が今後も維持できるかが注目点だ。
EVには航続距離のほか充電時間、劣化問題、電池材料のリチウムの価格高騰など懸念材料がなお残っている。また火力発電で発電した電気を充電してEVを走らせれば、全体として排出するCO2は必ずしも減らない。クルマの普及を考えるとき、「Well to Wheel(油田からクルマまで)」で議論する必要がある。
未来のクルマ社会はEVがもちろん伸びてゆくが、インタビューの2回目以降で議論したように燃料電池車(FVC)、ハイブリッド車、プラグインハイブリッド車(PHV)、クリーンなガソリン車・ディーゼル車などが共存していくに違いない。先進国、新興国、途上国のマーケットが一種類のパワートレインでカバーされるとは思えない。市場特性や用途に見合った適材適所のクルマが開発されていくのだろう。
ユーザーにとってはわくわくする未来である。だがメーカーがグローバルに市場を拡大しようとするとき、一点突破型では難しくなる。EVから内燃機関までを幅広く研究する必要に、メーカーは迫られる厳しい未来になるに違いない。
モータージャーナリスト
1954年生まれ。武蔵工業大学電子通信工学科卒業。1972年に自動車ラリーにデビューして以来、プロレースドライバーとして、国内外の耐久レースに出場。同時にモータージャーナリストとして、自動車の運動理論・安全技術・環境技術などを中心に多方面のメディアで活躍している。日本自動車研究所客員研究員。
安井 孝之(やすい・たかゆき)
Gemba Lab代表、フリー記者、元朝日新聞編集委員
1957年生まれ。早稲田大学理工学部卒業、東京工業大学大学院修了。日経ビジネス記者を経て88年朝日新聞社に入社。東京経済部次長を経て、2005年編集委員。17年Gemba Lab株式会社を設立、フリー記者に。日本記者クラブ企画委員。著書に『これからの優良企業』(PHP研究所)などがある。