EV、EVと言ったほうが株価は上がるが……

【安井】モーターと電池さえあれば、だれでもEVが作れるという話は少し短絡的だと思えます。

【清水】そういう分野もあるにはあるでしょう。小さなベンチャーが趣味のクルマをつくることはあり得るでしょう。でも世界中の市場で受け入れられるようなEVはつくれそうにないと思います。

清水和夫氏(右)と安井孝之氏(左)

【安井】街中でパーソナルモビリティとして使ったり、カーシェアリングしたりするEVという市場には参入が相次ぐ可能性がありますね。ゼロエミッションが求められる観光地で乗るようなクルマもひょっとしたらEVになるかもしれない。

【清水】そういうのはトヨタ、日産、ホンダがつくるのではなくて、ヤマハなどのオートバイメーカーが作ったほうがいいかもしれない。自動運転にして、お年寄りでも乗れるようにしたら売れるでしょう。

「電動化」といっても定義はあいまい

【安井】その分野でメルセデスとトヨタが真っ向勝負するという話にはなりませんね。

【清水】まったく違います。僕は、自動産業にとっての敵は世論かもしれないと思います。トランプ大統領を生み出したアメリカの世論みたいに、EVで自動車業界に革命をもたらし、EVが市場を席巻するぞという世論に自動車産業が追い立てられて、道を誤らないかと危惧しています。

【安井】スウェーデンのボルボが2019年以降に発売するクルマはすべて電動化する、と発表して話題になりましたが、これも中身をよく見ないと間違います。すべてEVなのかというとそうではなくて、内燃機関のエンジンも搭載しているマイルドハイブリッドやプラグインハイブリッドも「電動化」の中に入っています。「電動化」といっても定義はあいまいで、情報を受け取る方も誤解しているのが現実ではないでしょうか。ブームのようにフワフワとした雰囲気のもとで、みんなが動き始めて、その潮流に乗らないと、「おまえらはダメだ」とマーケットからたたかれてしまいかねないという危惧がありますね。

【清水】そうです。EV、EVと言ったほうが株価は上がる。そうすると株主は喜びます。19世紀末に自動車が誕生して以来の大変革を迎えているとは思います。しかし将来のクルマの姿はそんなに単純なものではありません。EVでも様々な形態が存在し、FCVもあり、場合によってはディーゼルもまた姿を変える、という風に多様性が増していくと思います。