EVの三重苦とは何か

EVといえば、日本では日産「リーフ」や三菱「アイ・ミーブ」が2010年頃に発売され、最近では街中でも見かける“普通のクルマ”になってきた。


プラグインハイブリッド車「プリウスPHV」のカットモデル(筆者撮影)

とはいえ、トヨタの「プリウス」や「アクア」、最近では日産「ノートe-POWER」など、エンジンとモーターを併用するハイブリッド車がエコカーの主流であり、EVはまだまだ”特殊なクルマ”というイメージを持っている人が多いはずだ。

なぜEVはなかなか普及しないのか? そこには、“EVの三重苦”がある。

第一は、航続距離が短いことだ。目いっぱい充電しても、ガソリン車を満タンにして走れる距離と同じレベルに達するEVはほとんどない。アメリカのテスラの場合、ガソリン車と同様の航続距離を可能にしているが、それは、モデルによってリーフの3倍から4倍に相当する大容量のリチウムイオン二次電池を搭載しているからだ。これがコストに直結して車両価格が高くなっている。テスラは高級車というブランド戦略なのでコストを吸収できるが、他のクルマでは取れない手法だ。

第二は、生産コスト。EVの主要な構成部品は、モーター、バッテリー、そしてインバーターなどの制御装置である。車両の価格競争力を確保するためには、これらの電装品を大量に、しかも継続的に調達しなければならない。だが、EV市場の今後については自動車メーカーそれぞれがさまざまな見方をしており、リーフやテスラの事例はレアケースだ。順当な方法としては、ハイブリッド車やプラグインハイブリッド車向けに開発した部品を転用、または改良することが考慮される。

第三に充電インフラの問題だ。自宅のコンセントから交流100Vで充電すると、一般的なEVが満充電するには、一晩以上かかる。また、電力会社に工事を依頼して自宅に200Vの交流充電器を完備しても、電池容量にもよるが5~8時間くらい長時間の充電が必要になる。駐車場が家から遠い、タワーパーキングであるなどの理由で、そもそも自宅の駐車場で充電できない人も多いだろう。

また、カーディーラーや高速道路のサービスエリアには大電力の直流充電器が設置されている。この場合、一般的には30分間で満充電の8割充電がめどになっている。リチウムイオン二次電池の特性上、満充電の8割程度までは一気に充電可能だが、残りの2割の充電には時間がかかる。また、急速充電は電池の劣化を早めると言われており、日産自動車はリーフを発売した当時から、自宅や会社などの交流充電を計画的に行い、急速充電は“バックアップ”という考えを顧客に伝えてきた。

さらに急速充電器ができる場所は限られている。カーディーラーや高速道路のサービスエリア、行政機関など中心に設置が進んでいるが、1カ所に複数台が完備されているケースは少ない。例えば自分の前に2台充電を待っていれば、自分が充電し終わるまでには30分×3=1時間半待ちとなってしまう。ガソリンスタンドで給油するのに比べ、時間がかかりすぎる。

トヨタがEV参入を決めたワケ

では、どうしてトヨタはマツダと連携して、本格的にEVに参入することを決めたのか。

一つは、EV三重苦の解決策が徐々に見えてきたからだ。航続距離の長い高性能バッテリーを、比較的安いコストで調達できる可能性が高まっている。現在、EV用のバッテリーは、各種のリチウムイオン電池を使っているが、中国の電池メーカーが近年、大量生産による急激なコスト削減を実現し、その影響で世界各地のEV用バッテリーのコストが下がってきたのだ。


量産化を目指してトヨタ社内で研究開発が進む、全固体電池(筆者撮影)

さらに、トヨタが開発を進める「全固体電池」の量産化にもめどが立ってきたようだ。全固体電池は内部の構成部品が液体ではなく固体でできた電池で、電池容量や充電時間が飛躍的に向上するといわれている。全固体電池の導入時期について、一部で「トヨタが2022年をめどに導入する」という報道があったが、トヨタの内山田竹志会長は8月4日午前中に千葉県幕張メッセで行ったプリウス20周年記念の記者会見後の囲み取材で「全固体電池の量産化は2022年より後になる」と話し、報道を否定した。どちらにしても、トヨタは今後、高性能で比較的コストが安いバッテリーを手に入れるめどが立っており、それによって充電インフラを効率的に活用できると考えたのだろう。

こうしたEVに関する技術革新に加え、トヨタがEVへの本格参入を決めた最大の理由は他にある。