伸び悩む結婚・子育て資金特例

さらに挙げるのが、「結婚・子育て資金の一括贈与の特例」である。こちらは、2019年までに、個人が結婚式代や出産費用、新居の引っ越し代等の結婚・子育て資金に充てるため、その直系尊属から、書面による贈与により取得した金銭を、結婚・子育て資金管理契約に基づき、金融機関に預貯金として預け入れた場合等には、その金銭等の価額のうち1000万円までは、贈与税の課税価格に算入しないとするものである。対象となる受贈者は、その直系尊属と金融機関との間に結婚・子育て資金管理契約を締結する日において20歳以上50歳未満の者に限られる。また受贈者の年齢が50歳に達した時点で、非課税拠出額から結婚・子育て資金支出額を控除した残額があるときは、その残額は、その年の贈与税の課税価格に算入される。

教育資金特例、結婚・子育て資金特例のいずれも、利用の際は、受贈者が、取扱金融機関に、支出を証明する領収書などを提出しなければならない。また、資金の払い出しは原則として金融機関の窓口での手続きとなる。受付は平日の昼間で、領収書のチェック等で予想以上に時間がかかることがあるため、場合によっては、仕事を休まねばならないこともある。

教育資金特例と結婚・子育て資金特例は、使途の対象となるライフステージこそ違うものの、一見よく似たシステムを備えている。しかし、2015年の教育資金特例は利用者85000人、非課税拠出額が5196億円なのに対し、結婚・子育て資金のそれは利用者3000人、非課税拠出額89億円と、利用には大幅な違いが見られる。なぜこんなにも差があるのだろうか。

実は、教育資金特例では、贈与者が贈与後に死亡したとしても、その時点での残額が贈与者である被相続人の相続財産に加算されることはない。それに対し、結婚・子育て資金特例では、受贈者が50歳になるまでに贈与者が死亡すると、その時点での残額が相続財産に加算され、相続税の課税対象となってしまう。受贈者からすると、これら特例の想定する資金用途が、学校での勉強や結婚、出産といったライフイベントに限定されるため、贈与されてもすぐに使い切ることが難しい。そのため、結婚・子育て資金特例では、贈与から相続までの期間が短い曽祖父母、祖父母からの贈与ではとくに使い残しが生じやすく、相続税が課税されやすくなる。

つまり、贈与者にしてみれば、教育資金特例は相続税の「節税対策」として魅力的であるが、結婚・子育て資金特例はその魅力に欠けがちで、それが利用の違いとなって表れているということになる。

結婚・子育て資金特例のメリットを挙げるとすれば、相続税では、通常、被相続人から孫への遺贈では相続税額が2割加算される。しかし、結婚・子育て資金特例が適用された贈与は、贈与者が亡くなった時点での残額が孫への遺贈とみなされるが、2割加算はしなくともよいことになっている。孫への贈与であれば、こうした点で、価値があるかもしれない。

ここまで紹介した住宅取得等資金、教育資金、結婚・子育て資金の特例は、暦年贈与、相続時精算課税のいずれかを選択した上で、それぞれを組み合わせることができ、場合によっては相続財産を大幅に圧縮することができる。