40年の仕事人生で25回も転職したいか?

しかし、みんな本当に望んでいるのだろうか? 40年の仕事人生で、20回も25回も転職したいと。こんな取り決めのどこがどう労働者のためになるのか、首をかしげてしまう。若いときにあちこち飛び回るのは悪くないかもしれないが、人生のある時点で、人は結婚し、子どもを持ち、落ち着きたいと考える。安定が大切になるのだ。ホフマン流の世界では、人は就活に人生の半分を費やすことになる。仕事の面接に行き、研修を受け、そこに落ち着き、新たな保険に加入し(加入させてもらえればの話だが)、税金の書類を埋め、新しい会社の退職金制度に移る。ところが、サッカーゲームテーブルの場所もまだうろ覚えのうちに、またしても就活の時期がやってくる。

アマゾンは、労働環境がとりわけ厳しいことで知られているが、短い「服務期間」というホフマンの方針に、さらに残酷なひねりを加えている。報酬データを追跡する企業、ペイスケールが2013年に行った調査によると、アマゾンの平均的労働者は、1年しかもたない。アマゾンは、報酬の一部を4年かけて支給するRSU(制限付き株式)で支払っている。ほとんどのIT企業では、毎年同数の株が支給されていくのに対し、アマゾンでは後期割り増し方式を取っているので、株式の大部分は3年目と4年目に与えられる。報道によると、1年後に退社する社員には、わずか5パーセントしか支給されない可能性がある。

多くのIT企業は社員を粗末に扱っておきながら、忠誠心を求め、雇用主に対してスポーツファンがチームに抱くような愛情を示してほしいと期待している。ハブスポットの社員は、「会社のニーズは、あなたのニーズより大切だ」と聞かされる。「チーム>個人」という表現で、ダーメッシュはそれをカルチャーコードの中で示し、コードには「われわれが愛する会社をつくる」というサブタイトルをつけた。でも、いったい誰が、会社と恋に落ちるというのだ? 「私たちは家族じゃない」なんて言われながら。

著者:ダン・ライオンズ Dan Lyons
小説家、ジャーナリスト、脚本家。かつては『ニューズウィーク』誌のテクノロジー・エディター、『フォーブス』誌のテクノロジー記者を務める。彼のブログ「スティーブ・ジョブズの秘密の日記」は、ジョブズになりすましてシリコンバレーをブラックジョークで斬るという独創性で話題となり、月に150万人の読者を集めた。現在は、ケーブルテレビ局HBOの連続ドラマ『シリコンバレー』の脚本を執筆。『ニューヨーク・タイムズ・マガジン』、『GQ』誌、『ヴァニティ・フェア』誌、『ワイアード』誌にも寄稿。マサチューセッツ州ウィンチェスター在住。
 

訳:長澤あかね
奈良県生まれ、横浜在住。関西学院大学社会学部卒業。広告代理店に勤務したのち、通訳を経て翻訳者に。訳書にエイミー・モーリン著『メンタルが強い人がやめた13の習慣』(講談社)、マーティン・ピストリウス著『ゴースト・ボーイ』(PHP研究所)、エイドリアン・トミネ著『キリング・アンド・ダイング』(国書刊行会)などがある。
 
【関連記事】
なぜIT業界の起業家は"バカで幼稚"なのか
辞めるべき「ブラック企業」の見分け方5
元保育士が激白「給料・待遇」の実態
「恋愛・結婚・出産できない」韓国の現実
「社畜」が主人公の漫画が増えている理由