「会社はあなたの家族ではない」
「会社はあなたの家族ではない」と著書『ALLIANCE アライアンス――人と企業が信頼で結ばれる新しい雇用』(ベン・カスノーカ、クリス・イェとの共著。 篠田真貴子監訳、倉田幸信訳、ダイヤモンド社)に書いたのは、超億万長者で、リンクトインの共同創業者兼会長のリード・ホフマンだ。ホフマンは言う。社員は仕事を軍の服務期間のように考え、長く勤めたいと思うべきじゃない、と。彼の考え方によると、仕事は取引だから、社員はサービスを提供し、報酬を受け取って、立ち去るべきなのだ。リンクトインでの仕事のほかに、ホフマンは一流のベンチャーキャピタル、グレイロック・パートナーズのパートナーも務め、『フォーブス』に「シリコンバレー1 人脈を持つ男」と呼ばれている。ホフマンは広く尊敬を集め、崇拝すらされているので、雇用主と社員の関係をめぐる彼の考え方は、起業家世代に影響を及ぼしている。彼らは、「ホフマンの言葉は絶対に正しい」と信じている。
ホフマンの「会社は家族ではない」という言葉のルーツは、シリコンバレーの定額制動画配信サービス「ネットフリックス」の「カルチャーコード」にさかのぼる。2009年に発表されたこのカルチャーコードは、「私たちはチームであって、家族ではない」と宣言したことで有名だ。ネットフリックスのコードは、IT系スタートアップ世代にひらめきを与え、「おそらくシリコンバレー発の最も重要な文書」とフェイスブックのCOO、シェリル・サンドバーグに言わしめた。シャアは、ネットフリックスのコードをハブスポットのカルチャーコードのモデルとして活用し、「私たちはチームであって、家族ではない」の1文を盗用している。
社員は「プロのアスリート」と同じ?
ネットフリックスは「家族ではない」という考え方を正当化すべく、「IT企業は、プロのスポーツチームのように、『あらゆるポジションにスター』が必要だから」と主張している。その考え方を、年に何百万ドルも稼ぎ、30歳や35歳で引退するプロのアスリートに適用するならいざ知らず、一般社員に当てはめられた日には、ちょっと無慈悲に聞こえる。その結果、『フォーチュン』『ニュー・リパブリック』「ブルームバーグ」『ニューヨーク・マガジン』等のメディアに掲載された数え切れないほどの記事によると、シリコンバレーは今や、人々がびくびくしながら暮らす場所になった。より優秀な、もしくは安い人材が現れるや否や、会社はあなたをクビにする。50歳、いや40歳、いや35歳になったら、賃上げを要求して給料が高くなり過ぎたら、新卒のグループがやってきてあなたの仕事を安くこなしたら――もうお払い箱だ。くつろいでいる場合じゃない。
労働者と雇用主のこの新たな取り決めは、シリコンバレーの企業によって発案され、チップやソフトウェアに負けないくらい重要なイノベーションだと考えられている。有名なのはチップやソフトウェアのほうだけど、今やこの価値観も、シリコンバレーの外へと広がっている。私たちは今、とてつもなく大きな経済改革の時代を生きている。そこではあらゆる業界――小売り、銀行、医療、メディア、製造――がテクノロジーによってつくり変えられている。各業界が変化していく中で、労働者の扱い方も変わりつつある。