若者のやる気を搾取する
若者を雇うもう一つの理由は、安いから。ハブスポットは赤字経営だが、多くの人手が必要だ。何百人もの人を、なるべく安い賃金で営業やマーケティングといった部署で働かせるには、どうすればいい? 大学出たての若者を雇い、仕事を面白く見せるのも一案だ。タダのビールやサッカーゲームテーブルを与え、職場には、幼稚園とフラットハウスを足して2で割ったような飾りつけをし、たびたびパーティを開く。そうすれば、やってくる若者が途切れることはない。そして年間3万5000ドルで、絶え間ないけた外れな精神的プレッシャーに耐え、クモザル部屋であくせく働き続けてくれる。彼らをだだっ広い部屋に、肩が触れ合うくらい密な状態で詰め込めば、さらにコストを削減できる。そして、こう告げるのだ。「オフィス空間にかかるお金がもったいないからじゃないよ。君たちの世代はこういう働き方が好きだから、こうしてるだけ」
さまざまなお楽しみに加えて、仕事を有意義に見せる神話づくりも大切だ。ミレニアル世代は、お金にはさほどこだわらないが、使命感に突き動かされる、と言われる。だから、彼らに使命(ミッション)を与えよう。「君たちは特別な存在だ」「ここにいられるなんて、ラッキーだ」とささやき、「この会社はハーバード大学より難関だ」「君はそのスーパーパワーゆえに選ばれて、世界を変えるという重要なミッションに取り組んでいる」と持ち上げる。チームカラーとチームロゴを決めて、会社をチームに仕立て、全員に帽子とTシャツを配る。カルチャーコードをつくり、みんなに愛される会社づくりを語る。そして、「リッチになれるかも」という可能性をちらつかせる。
アマゾンの平均的労働者は1年で転職
シリコンバレーには、影の部分がある。もちろんIT業界にも、明るく幸せに働いている人は大勢いる。だがここは、富が不平等に分配され、利益の大半は、自分たちの都合のいいようにゲームを操作してきた投資家と創業者のポケットに入る――そんな世界だ。年を重ねた労働者は相手にされず、40歳になるとポイ捨てされる。雇用主が人種や性別で人を差別したり、時には創業者が反社会的なモンスターだと判明することもある。あまり(あるいはまったく)訓練を受けていない管理職が社員を馬車馬のように働かせたり解雇してもおとがめもなく、労働者への支援や仕事の保障もほとんどない、そんな世界でもある。
2014年12月、ジャーナリストのニコラス・レマンが『ニューヨーカー』誌にエッセイを発表した。レマンはこのエッセイの中で、ゼネラル・モーターズの伝説のCEO、アルフレッド・スローンが1964年に出版した回顧録『GMとともに』(有賀裕子訳、ダイヤモンド社)で述べた職場のビジョンと、グーグル幹部たちが次々と出版した本で説明しているビジョンとを対比させている。
スローンのGMを動かしていた20世紀モデルのもとでは、「社員の大半が労働組合に加入し、企業はホワイトカラーの社員に事実上の終身雇用を提供していた。社員は、就労期間中に着実に昇給し、退職後には年金が支払われた」と、レマンは書いている。状況が変わったのは、インターネット、とくにグーグルが登場してからだ。グーグルは、多くの労働者を抱えて成功した最初のインターネット企業だ。レマンによると、グーグルは「企業をいかに経営するか、そのルールを破ったこと」で成功した。
最大の破壊は、かつては企業と労働者の間にも、企業と社会全体の間にも存在した「社会契約」にまつわるものだろう。ほんの少し前には、企業が社員に気を配り、よき企業市民でなくてはならない時代があった。今日では、そんな社会契約は破り捨てられてしまった。この「新たな職場」では、雇用主が労働者に忠誠心を期待することはあっても、お返しに雇用主が労働者に忠誠心を示す義務はない。人々は生涯続く安定した仕事を提供される代わりに、使い捨ての部品みたいに扱われている。この部品は1~2年、会社に差し込まれているけれど、そのうち抜かれ、ポイ捨てされる。このモデルのもとでは、誰もがおおむねフリーランスで、短期契約を交わし、サービスを売る。一生のうちに、何十もの職場を転々とすることになるかもしれない。