昼寝を戦略的に活用、生産性を高める
――昼寝を戦略的に活用することは、これからのビジネスマンには必要なことかもしれませんね。
【白濱】そうです。近年、企業でも学校でも生産性を高めるために昼寝の有効活用が考えられています。アメリカのミシガン大学では、図書館内に簡易ベッドと枕を備えた仮眠室を開設したといいます。ジェームズ・マディソン大学では寝心地のいい大きなクッションを40分間利用できる仮眠所を設置したそうです。日本の大学でも、岐阜県の情報科学芸術大学院大学が仮眠室を用意しているといいます。
――そういう仮眠室がある職場ならいいですが。
【白濱】企業や学校が公認した仮眠室がなくても、ちょっとした静かなスペースがあれば昼寝はできます。
――昼寝でパフォーマンスを最大限に引き上げるということですか?
【白濱】その通りです。昼寝は活力を回復する最良の方法です。しかも、昼寝のメリットは、年齢とともに増幅します。高齢者を対象にした日本の研究ですが、30分間の昼寝は中程度の運動とともに、夜の睡眠の質を高めて、日中のだるさを軽減したと報告されています。
昼寝する時間があったら、コーヒーを片手に少しでも仕事を進めたいと思う気持ちはわかります。しかし、200ミリグラムのカフェイン(約コーヒー1杯分)と昼寝で比較すると、記憶力と問題解決能力は昼寝のほうが勝っています。
――昼寝に勝る眠気覚ましはないということですね。これからは昼間に眠気が襲ってきたら、抵抗しないようにします。
【白濱】それはとてもいい心がけです。昨晩ぐっすり眠ったから今日は昼寝をしないでもいいだろうとは考えなくてもいいですからね。眠くなったら寝てください。
――十分な睡眠時間をとった上で昼寝というのは寝すぎになりませんか?
【白濱】昼寝は午後のパフォーマンスを上げるための大切な時間です。眠気と闘いながら仕事を続けるのはムダな努力。体にも負担をかけるだけです。「パワー・ナップ(仮眠)」という言葉を生み出したといわれるイギリスの元首相ウィンストン・チャーチルは、昼寝をすることで1日が2日分、少なくとも1日半分になると話しています。第35代アメリカ合衆国大統領ジョン・F・ケネディは、昼寝をしている間はスタッフが部屋を訪れることも電話も受け付けなかったといいます。ただ、昼寝には注意する点もあります。
――眠くなったら寝るだけではいけないんですか?
【白濱】そうなったときに横になってしまうと、熟睡モードに入って本格的に寝てしまいますからね。
――昼寝に適した時間があるというわけですね?
【白濱】昼寝は短く、これが基本です。多少の個人差はあると思いますが、25分程度が理想でしょう。その中でも実際に寝ている時間は20分と考えてください。残りの5分は、しっかりと覚醒して仕事に向かうための準備をする時間です。水で顔を洗ったりするのがいいでしょう。
――もうひとつ、先生に聞きたいことがあります。どうしても徹夜しなければ仕事が終わらないという日がありますよね?
【白濱】そういうときは、仮眠を上手に使いましょう。15~20分程度の仮眠で一晩は乗り切れます。ほんの少しでも脳を休めることで、仕事のパフォーマンスの維持はもちろん、体に与えるダメージが軽減されるはずです。
医学博士・日本睡眠学会認定医。筑波大学医学群医学類卒業。東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科統合呼吸器病学修了。東京医科歯科大学呼吸器内科・快眠センター、公立総合病院睡眠センター長ほかを経て、2013年6月からRESM新横浜/睡眠・呼吸メディカルケアクリニック(日本睡眠学会認定A型施設)院長。経済産業省海外支援プログラムに参加し、海外の医師たちへの睡眠時無呼吸症候群の教育を行うとともに、順天堂大学医学部公衆衛生学講師として睡眠予防医学の観点から臨床研究発表、講演も行っている。現在、国内企業と組み、ビジネスパーソンのパフォーマンス向上のためのオーダーメイド睡眠改善プログラムを開発中。さまざまな挑戦を続けている。