拡大する徴収範囲、次なる矛先は……

最近、もうひとつ注目を集める話題が、音楽教室への請求である。

6月7日、JASRACは来年1月より、同協会が管理する著作物をピアノなどの音楽教室で演奏した場合、教室が得た受講料の2.5%を徴収する方針を明らかにした。

JASRACは、音楽教室で教える行為には著作権法で定める「演奏権」が及ぶと主張する。演奏権の対象となるのは、公の演奏。つまり公衆に聞かせる目的での演奏である。公衆の定義は「不特定または多数の人」で、多数とは数十名以上のレベル。たとえば客がたった1人でも、誰でも入れるライブハウスは「不特定」に対して、結婚式や卒業式などは「多数」に対して演奏しているから、公の演奏と見なされる。家で家族にピアノを聞かせるのは、聴衆が特定の少数者のため、公の演奏とは見なされない。

JASRACの言い分は、誰でも入学できる音楽教室は不特定に対して門戸を開いており、入れ代わり立ち代わり生徒が来るから、全体を見れば多数。つまり、不特定かつ多数の公衆に聞かせる演奏というわけである。2004年、社交ダンス教室で流す音楽に対して著作権使用料を求めた際、上記の考えを裁判所は認め、JASRACは勝訴した。ゆえに今回も強気だ。

一方、音楽教室は、おもに「公衆」の定義ではなく、「公衆に聞かせる目的の」演奏などしてはいない、という点で争おうとしている。聞かせる目的の演奏とは、コンサートや結婚式。しかし音楽教室の演奏はそこに至るまでの準備段階であり、聞かせるためではなく練習や指導するための手段にすぎないという主張だろう。実際、多くの音楽教室は、練習で使用する楽譜や、公衆に聞かせる発表会で発生する著作権料はきちんと支払っているはずだ。

機械的に見れば、「公衆」「聞かせる」「演奏」の要素が一見揃っているが、全体で見たとき、「公衆に聞かせる目的の演奏」として使用料を徴収するのは、どうも違和感が残る。おそらく現在の著作権法に「演奏権」を置いた当時の意図からは、はずれているのではないか。

音楽教室を主催する団体が参加する「音楽教育を守る会」は、音楽教室での演奏は著作権侵害に当たらないという確認を求め、7月に東京地裁に提訴する予定だ。社交ダンス教室の裁判は、第三者が演奏した音源を流して、教室と生徒が音楽を享受しているとも思えるから、ここまで激しい議論にはならなかった。しかしCDの売り上げが減少する近年、カラオケはもちろん、フィットネスクラブ、プロレスの入場曲など、JASRACは徴収範囲を拡大することで、収入を維持してきた。今回は、かなり微妙なところに手を伸ばしてきた印象である。裁判の見込みは五分五分というところだろう。