本来、特別検察官の任命権は司法長官が持っているが、現在のジェフ・セッションズ司法長官はトランプ大統領に近しい。ところが、セッションズ氏は昨年の大統領選中に駐米ロシア大使と面会していたことが問題視されて自ら捜査を外れていたために、副長官が代行して特別検察官を任命した。トランプ大統領も公表直前まで任命を知らされなかったというから、政権内部の足並みがそろっているかも相当に怪しい。特別検察官に任命されたロバート・モラー氏はジョージ・W・ブッシュ政権とオバマ政権で長らくFBI長官を務めた人物で、与野党双方から評価が高い。モラー氏の捜査如何では、トランプ大統領は議会下院で弾劾訴追を受ける可能性が出てくる。続けて上院の弾劾裁判で「有罪」になれば大統領は罷免だ。ウォーターゲート事件では特別検察官を解任したニクソン大統領に対する批判が強まり、下院での弾劾訴追が避けられなくなってニクソン大統領は辞任に追い込まれた。

ロシア疑惑の捜査を指揮するロバート・モラー特別検察官。(写真=AFLO)

トランプ大統領は「徹底した捜査で、わが陣営といかなる外国主体とも共謀がなかったことが確認されるだろう」と強気の姿勢を崩していない。しかし、新聞記者との質疑応答さえまともにできないトランプ氏が議会の証人喚問をまともに受けられるとは思えないので弾劾訴追が避けられない状況になった場合には、性格的にも政権を投げ出すのではないか。昨年の米大統領選挙でロシアの不当な干渉があったことはアメリカの情報機関CIAが正式な報告書で認めている。選挙期間中、クリントン氏が不利になるような情報が民主党の関連団体や個人からハッキングされて、内部告発サイトの「ウィキリークス」を通じて繰り返し暴露されたが、これらはロシア側が仕掛けたものだったと報告書は断じている。「民主党候補のクリントン氏に打撃を与え、共和党候補のトランプ氏を利するためにロシアのプーチン大統領が工作を命じた」と結論づけている。